03
また追及を始めるが、最初会ったときのように、相手はだんまり。しかし、先ほどのように粘り強く押すと、やはり彼は気だるそうに口を開いた。
「俺はヴァンパイア。吸血鬼だよ」
「え? 吸血鬼……? って、あの、血を吸う?」
「そうだよ」
「嘘……」
「嘘じゃないよ。こんなにしつこく質問されて、嘘なんてつく気すらなれないよ」
言っていることは正論だが、それでも信じるほど馬鹿ではない。
それに、ヴァンパイアだとか吸血鬼だとか、現実に存在するはずがない。
未だ疑いの眼差しを向ける雛に、彼は溜息を一つついてにっと笑ってみせる。
何事かと思ったが、よく見ると、前歯の両端に鋭い牙が生えている。
決して、人間の犬歯ほどのスケールではない。
「まだ信じない?」
「し、信じるとか、信じないとかじゃ……。そんなの、いるわけないよ」
「じゃあ、証拠を見せてあげる」
「証拠……?」
少年の整った顔が雛の首筋に接近し、彼は牙を当て──噛んだ。
「いっ……」
突然、襲ってきた痛みに小さく呻く。
だが、それは最初だけ。
噛まれたところから熱を注入されたかのように熱くなっていき、それが全身に及ぶとドクンッ──と心臓が脈打つ。
そして、その脈が全身に張り巡らされたかのようにドクンドクンと暴れたかと思えば、心地よい快感に包まれる。
「いやっ……な、に、やだ……っ──ああぁぁぁっっ!」
その甘い疼きに酔いしれてしまい、雛の躯は簡単に絶頂を迎えたのである。
「は、はっ……何、これ……?」
「ヴァンパイアに血を吸われると、気持ちいいって言うでしょ? これがそうだよ、お姉さん」
唇に付着した赤い血液を舌で拭った少年。
そう、彼は正しく、ヴァンパイアだったのである。
「それにしても、お姉さんの血ってすごく美味しい……。それに、普通はあんな簡単にイカないのに」
「え……?」
(どういう……こと?)
さっぱり分からない。
この少年は誰で、何者で、我が身はどのような状況に置かれているのかと。
「お姉さんって、もしかしたら……『黄金の杯』なのかもしれないね」
「『黄金の杯』……? って?」