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 絢未は元気がなさそうに帰っていった。
 あのままの調子で帰れるかどうか心配だったが、そんなことも忘れて22時をもって閉店することにした。


 今日は戸締まりの当番なので、店内をチェックして回り、シャッターを閉める。


(そういえば……今日は忍田さん、来なかったなぁ)


 忍田さんは朝と夜に必ず来るのだが、とうとう来店することはなかった。
 噂を聞く限りはかなりのやり手らしく、顧客数は10位以内に入るとか。


(忙しそうだもんね……いつも眠そうにしてるし)


 きっと会社に入った途端に、やり手の営業マンになるのだろう。


「──あー、閉まっちゃったか……」

「忍田さん!?」


 シャッターを閉め終えたその瞬間、声が聞こえたからそちらに顔を向けると、はぁはぁと息を切らす忍田さんの姿があった。


「だ、大丈夫ですか!?」

「平気……だよ。でも、残念だったなぁ、コーヒー飲みたかったんだけど」

「そうなんですか……」


 忍田さんはよっぽどコーヒーを飲みたかったんだろうか。
 そうなのかと思うと、なんだか申し訳ない気持ちになる。


「ごめんね。また、明日来るから」

「あっ……! 待ってください、忍田さん!」


 私の隣を通りすぎて帰ろうとする忍田さんを引き止める。
 忍田さんは首を傾げながら、振り返る。


「ん?」

「あの……よかったら、飲んで行きませんか?」

「え? でも」

「裏口から入ってください。せっかくお店に来てくれたのに、帰れだなんて言えません」

「いいのか?」

「もちろんです、忍田さんは常連さんなんですから」

「そっか……。ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」

「はい。──じゃあ、こちらからどうぞ。ついてきてください」


 忍田さんを誘導し、裏口から店に入る。
 1階にはカウンター席も用意しているので、そちらに座ってもらい、コーヒーを淹れる。
 私もカフェラテを作り、失礼して隣に座る。


「どうぞ」

「ありがとう」


 カップを受け取るなり、喉も渇いていたせいもあってか、忍田さんはすぐに口をつけてからやっとテーブルに置く。


「ホントにありがとう」

「いえ。気にしないでください」