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「立花さん。私も絢未と同じモノをお願いします。仕事に入る前に一息つきます」
「判った。少し待っててね」
「はい、ありがとうございます」
立花さんが去っても尚、絢未は未だにニヤニヤしている。
それは立花さんが私たちのオーダーを運んできても続いていた。
それを知ってか知らずか、立花さんは絢未の方を見て、微笑ましそうにしている。
「新城さん」
「えっ!? あっ、はいっ」
「今日はいつものお姿じゃないんですね。研究の帰りですか?」
「えっ、あ、はい……」
「そうなんですか。──がんばったんですね。どうぞ、この『レ・エ・カフェ』で癒されてくださいね」
「は、はい……ありがとうございます」
さらに赤面させた絢未を見て、営業スマイルとは違う優しい笑顔を向けていた。
しばらくして、新たな客が入店してきたためにオーダーのトレイを受け取って、上へ登った。
「はぁ〜っ、緊張した……」
テーブルの席に着席するや否や、絢未の口から肺の中の全ての酸素が失われるのではと心配するほどのため息が溢れ出る。
そして、絢未はそのまま机の上に突っ伏した。
「お疲れさま」
「ね、聞いた?」
「何が?」
腕の中に顔を仕舞いながら、くぐもった声で何やら問いかけてくる。
首を傾げていると、絢未は起き上がる様子も見せずに話す。
「がんばったねって……。うれしすぎる」
「ああ……そうだね」
「癒されてねって……。もう十分に癒された」
「そ、そうだね……」
抑揚のない声でしゃべり続け、ようやく顔を上げた絢未。
だが、そこに普段の明るい友達はいなく、赤面して涙を溢れんばかりに溜めている女の子がいた。
「えっ、ちょっ……絢未!?」
「ぅえぇぇ……チョーうれしー……っ」
「ちょっと絢未っ……。もう泣かないでよ〜」
「ひっく……だってぇえ……っ」
「もぉー。ほら。早く食べちゃおうよ。せっかくの立花さんの優しさが冷めちゃうよ?」
「うっ……うん、そうだね……」
恋する乙女ってすごいな……。
かくもここまで人を変えてしまうというのか。
今なお、泣きじゃくる絢未を宥めながら、キャラメルマキアートに口をつけた。
「はぁ、美味しい……」
「うん……。トーストも美味しい」
「そうだね」
忍田さんが好むのも、頷ける。
そういえば、忍田さんは甘党なのか、それともそうではないのかが分からない。
別に立花さんが手がけたトーストはどれもが美味しいと折り紙付きなのに、なぜはちみつがけトーストなのか。
忍田さんって、不思議な人なのかも……。