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今日は16時までだったので、18時から入ることになっている。
絢未は研究のために一緒に大学から出られなかったので、カフェの最寄り駅である星丘駅で17時に待ち合わせることにした。
ホント、すごいな……。
研究なんて全然だもんなぁ……。
「結ー! お待たせ!」
「絢未。研究お疲れ」
「へへっ、まあね。でも、細胞の動きって見てるとおもしろくて楽しいから、夢中になっちゃってたよ」
「へ〜……」
いまいち分からずに引き気味に受け流し、バイト先に向かった。
星丘駅から歩いて20分ぐらいのところにある。
スーツを着たくたびれた人達を目で追いながら、カフェに到着する。
「今日って、立花さんいるかな……」
「今日は立花さん、18時までだからいると思うよ」
「そ、そっか……」
いつも堂々としている絢未はそこにいなくて、辺りをキョロキョロと見渡してみたり、鏡を取り出してメイクが崩れていないか確認をしてみたり、服装が乱れていないかと念入りにチェックしている。
「だ、大丈夫? 私、変じゃない? それに……私、今日は行く気なかったから、研究用のシンプルな服なんだけど」
「大丈夫だって。いつものちょっと派手めな格好は見慣れてるから、逆にそのシンプルさが新鮮でいいかもしれないよ」
「そ、そっか……。確かにそうだよね……うん!」
「そうそう。──ほら、そんなこと気にしてたら、あっという間に18時になっちゃうよ」
「うん、そうだね! 行こう」
恋する乙女からいつもの絢未に戻ったことに安心し、私が先陣を切って入店し、その背後にぴったりと絢未がくっつくというお決まりのパターンだ。
「お疲れ様です」
「ああ、黒川さん。お疲れ様」
立花さんは仕事のときと変わらずに爽やかな笑顔で返してくれる。
私の後ろで立花さんの声に気がついた絢未がビクリと動いたことを確認すると、絢未の緊張した声が右肩の辺りで聞こえた。
そちらに顔を動かすと、ちょこんと赤い顔を覗かせて立花さんを見ている。
「あ、あああ……あのっ……こんばんは」
元気な絢未の声はいつになく小さいが、存在に気がついた立花さんは「ん」と声を洩らして、絢未を見つめて頭を軽く下げて挨拶する。
「新城さん。こんばんは。いらしてくれたんですね。ありがとうございます」
「あ、いえ……っ」
名前を覚えてくれていたことがうれしかったのか、やっと私の後ろから全身を見せる。
「あの……今日もください」
「はい。かしこまりました。キャラメルマキアートSとはちみつがけトーストですね」
「はい……っ」
「いつもの」が通じて、絢未はうれしそうに、そして幸せそうに笑う。
よかったね……。