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 根掘り葉掘り訊かれそうなところで立花さんが止めに来てくれたおかげで、事なきを終え、その日のバイトも無事に終えたのだった。


「お疲れさま、黒川さん」

「あ、立花さん。お疲れさまです……」

「はは、疲れちゃった?」

「それはもう……。まるで絢未が2人になったような勢いでした」

「はは、2倍か! それはすごいエネルギッシュだね!」


 あ……優しい表情……。

 こんな表情を見せるのは絢未の話が出たときぐらいだ、もちろん普段温厚な表情を見せてはくれるのだけれど、このときの立花さんは暖かみもある顔なんだ。
 きっと見かけたのは立花さんじゃなかったか、女性と出会したところをたまたま目撃しただけだったのだろう。


「よかった……」

「ん? 何が?」

「あっ、いえ! ただの独り言ですっ」

「そ、そう? それにしても、今日は忍田さん来ないんだね?」

「あ、そうなんです。今日は残業らしくて」

「ふ〜ん、そうなんだ。最近、ホントいきいきと忍田さんのこと話してくれるよね。幸せな感じが溢れ出てるよ」

「そ、それ、みんなに言われます……。前にも忍田さんに言われたんですけど、私って顔に出ちゃうタイプみたいで……」

「ははっ、そっかそっか。忍田さんはよく見てるよね」

「それがたまに恥ずかしいんですけどね……」

「はは。でも判るなぁ、忍田さんの気持ち。好きな人をつい見ちゃうってのは」

「そ、そうですか?」

「そうなんだよ」


 でも……言われてみれば、私も思い当たる節が。
 うん、気をつけよう。


「忍田さんもきっと楽しいだろうね。毎日がこう……輝いてる感じが?」

「はは、なんか忍田さんらしい表現されそうです、それ」

「そうかもね。そういう意味ではあの人のことも判りやすいよね」

「そうかもしれませんね」

「俺もちょっと羨ましくなってきちゃったよ……。2人を見ると」

「ええ〜そうですか?」

「そうだよ。2人ともいい感じ」

「あははっ、ありがとうございます」


 そう言ってもらえるとうれしいなぁ……。
 意味もなく不安に駆られていたけれど、少しはマシになったかもしれない。