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「ふぅ……」
帰り道、エコバッグを提げて一息つく。
絢未はあれからもずっと大事にスマホを持っていて、感激に打ち震えていた。
恋する乙女ってすごいなぁ〜……。
絢未を見ていると、あの頃を思い出すなぁ……懐かしい。
思いを馳せるように夜空にある月を見つめ……頭を振り払った。
もう恋愛はいい……つらい思いをするぐらいなら──。
ドンッ──「きゃっ!?」
月をぼーっと眺めていると、突然背後から強い衝撃を受けて体勢が崩れたかと思えば、口を手で覆われ、挙句にはもう片方の腕でがっちりと体を固められる。
「んっ、んん〜っっ!?」
「声を出すなっ」
「っ……!」男の低くねっとりとした声音が鼓膜の奥にまとわりつく。
まさか、痴漢……!?
「でかい声一つでも出すなよ!」──私の体をホールドしていた腕が上に上がり、胸をもみくちゃにされる。
ど、どうしよう……怖い──!
──ドクン……
「ひ……」
ドクン……ドクン……ドクン──ドクン──
頭の中で思い出したくもないことがフラッシュバックされ……心音が速くなって、胸が苦しくなって、目眩がして吐き気が襲う……。
思い出したくない……やめて……怖い……怖い怖い怖い怖い怖い──助けて……!
「何してるんだ!?」
ひどい耳鳴りがしてきたと思えば、そんな中でかすかに聞こえる男性の焦りと怒りとが混じった声がする。
その瞬間、私の体を這いずり回る手も悪寒もなくなって、私はその場に足から崩れ落ちた。
「動くなよ!」──私を襲った人は男性に組み敷かれ、そのすぐ傍にもう一人男性が立っていて通報しているようだった。
電話を終えると、心配してか私の元まで駆け寄って優しく話しかけてくれた。
「大丈夫ですか!? ──あ……」
「だ、大丈夫です……って、あれ?」
お互い顔を確認すると、どちらからともなくフリーズして終始見つめ合っていると、そんなことをしている場合じゃないと気がついて声を出した。
「忍田……さん?」
「あ……結ちゃん……」
なんで、忍田さんがこんなところに……?