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「立花さんのトーストって、なんでこんなに美味しいのかな」
「そういえば、聞いたことあるよ。立花さんのおじいさんが喫茶店をやっててね、トースト焼くの手伝ってたんだって。結構、叩き込まれたらしいよ」
「へえ、そうなんだぁ。なるほど、熟練の技ってやつだ」
「そうなるね」
「いつもこんな美味しいトースト食べたいなぁ」
「だったら、告白すればいいじゃん……」
「むっ……無理無理無理! 私なんて眼中にないよ、きっと!」
「でも、いい感じだけど?」
「あれは……。結なら分かるでしょ。あれはきっと私が客だからだよ……」
確かにその線はあるかもしれないが、立花さんの絢未を見る目がどう見ても優しいものだ。
本人は気づいていないだけで、好意を抱いていることもあるかもしれない。
「もったいないと思うよ。立花さんってモテるし……早く言わないと、手遅れになるかもだよ?」
「それはそうだけど……」
あの絢未がこんなに奥手なんて知らなかった。
第一印象とは、こんなに大事なものだったのかとしみじみ思う。
「じゃあ、後でそれとなく探ってみるから、もしいい感じだったら、デートでも誘ってみたらいいんじゃない? もしかしたら、意識してくれるかもよ?」
「う……」
カップをかじりながら黙ってしまった絢未。
やれやれと一息ついて、最後の一口を口の中へ放って、スマホを見ると、17時45分になっていた。
そろそろ支度をしないといけない時間だ。
「ごめん、絢未。先に行くね。もう時間だから」
「うん……」
「気をつけて帰ってね」
「うん……」
生返事をする絢未が気にはなったが、バイトに遅れるわけにはいかない。
後でラインでもしようと思い、下へ降りたのだった。