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「そうも行かないよ。──そうだ、明日は大学は?」

「え? 明日は午後だけですけど……」

「そっか。じゃあ、今から一緒に飲まない?」

「え? そ、そんなっ……悪いです! 忍田さん、明日は仕事ですよね?」

「気にしなくていいよ。実は、今日は部長からいい加減、休めって言われてね。明日は休みにしたんだ」

「あ……。じゃあ、今日、遅かったのは……」

「ご名答。片付けておいた方がいい仕事があったからやってたら、こうして結ちゃんと飲んでるわけだ」

「そうだったんですか。──だったら、尚更だめです。早く帰ってゆっくり休めて下さい」

「いやいや。お礼しないと気が済まないよ」

「でも……」

「営業の基本だよ。何かおもてなしされたら、こっちももてなし返さなきゃならない」

「う……」


 言葉に詰まる私に、忍田さんは笑って「交渉成立、だ」ととどめを刺した。

 忍田さんの笑顔って、結構弱いんだよね……。


 ──お店を閉め、忍田さんのお礼のために、私たちはいわゆるおしゃれ居酒屋で飲むこととなった。


「結ちゃん、お酒は得意な方?」

「実はまだ、飲んだことなくて……。20歳になったのも、つい先月なので」

「そっか。じゃあ、今日は酎ハイ程度に留めておいた方がいいね」

「忍田さんはどうなんですか?」

「俺は強い方だよ。飲み会に参加するのも営業の一つだからね」

「へえ、そうなんですね……」


 そっか、すごいな……。

 忍田さんはこうやって計算してるから、成績がいいのか。


 忍田さんに言われたとおり、アルコール度数3%の酎ハイを頼む。
 対して、忍田さんはビールと、夕食を兼ねたメニューをオーダーする。


「ここはディナーもできるんだ。よかったら、食べて」

「えっ、もしかして忍田さん持ちですか!?」

「ん、そうだけど?」

「そ、そんな! 自分のものは自分で会計しないと……!」

「これは俺からのお礼なんだ。結ちゃんは奢られて当然だよ」

「でも……」

「男が1回言い出したことは途中撤回しちゃだめなんだ。それに……せっかく誘ったんだ。俺の顔を立たせてよ。ね?」

「あ……はい……」

「ん。おかわりもいいからね。気にせずに楽しんで」

「はい……」