「デートするぞ」 - 01

「おはよう、奏!」

「おはよー」


 なぜか山下君と付き合っている──体だけど──ことになって、一週間が経過した。


 あれから何が変わったかと問われれば、芦屋君が近づいてくることがなくなったということぐらいで、これといった実感はない。
 正直、芦屋君がすんなり引き下がったことに違和感はあるが、これはこれで平和と呼べるかもしれない。


「やっぱ、山下ってクールな感じだよねー。たまに一緒に帰るぐらいじゃん?」

「まあ……山下君は電車組だし……」


 それに、一緒に帰ってもこれといった会話もなく、私の家に到着すれば「じゃあな」とあっさりとした挨拶で終わってしまうのだから、気まずいこと極まりない。


「っていうか、ホントに予想外だよー。いや、だって、山下ってホント嫌な噂が尽きなかったし、奏みたいなタイプ、好きそうじゃなさそうだし……」

「ほんそれ!」

「あはは……」


 何も言えない……。


 私と山下君のことで話題が尽きずに教室に到着すると、一斉にクラスメイトが振り返って「おはよー」と挨拶してくれる。
 これも、山下君の効果だ……。


 ちょっといやなんだよね……。


「坂下、はよ」

「あ……おはようございます……」


 席に着くと、今までろくにされたことがなかった挨拶をしてくれる山下君。
 一体、何を思って私と付き合っているフリを続けるのだろうか……そんな思いが、日に日に増していっている。


「あ、そうだ」

「はい?」

「今度の日曜、空いてるか?」

「え……? あ、空いてます……けど」

「じゃ、出かけるぞ」

「え? ど、どこにですか?」

「ちょっと遠くな」

「遠くって……アバウトですね……」

「悪いか」

「い、いえ……」

「じゃあ、青葉駅で11時。判ったな?」

「わ、分かりました……」

「つーか、お前……。俺がデートに誘ってんの判って、返事してるか?」

「え? デート……?」

「まさか、デートのこと判ん──」

「そ、それぐらいは分かります!」

「ははっ、そっか。安心したわ」

「かっ、からかわないでください……!」


 っていうか、デート!?

 山下君と!?

 なんだか、いやな予感しかしない……。


 しかし、今さら断ることもできない。

 日曜、どうしよ……。
- ナノ -