「オレの×××」 - 01

 ──『いいか? 明日からはコンタクト、髪も下ろせ。──判ったな?』


 と、ほぼ脅迫めいた口調で指示されてしまい、帰宅するなり、自分の部屋にある鏡の前で愛用の眼鏡を外して、引き出しの奥にずっと封印していたコンタクトレンズの箱を見つめ……机に突っ伏した。


 なんで、こんなことになっちゃったのぉ〜。


 どうしてよりにもよって、山下君にバレちゃうの……。



 はぁ、と一つ溜息を吐いて、再び鏡に映る正面の自分の顔を見つめる。
 そして、しばらくしてから箱を開け、コンタクトを取り出し、いざ目に入れてみた。
 何度か瞬きして瞳に馴染ませると、眼鏡とは違って、普段なら顔にあるはずの違和感はない。


 コンタクトって……こんな感じなんだ……。


 姉に言われて渋々作ってみたが、イメチェンする勇気なんかなく、眠っていたコンタクトレンズ。
 まだ目に異物感はあるが、そのうち慣れるはず。


「何言われるか、分かんないし……」


 無難につけておこうとそのままにし、結んでいた髪をほどき、櫛で梳く。


「どんな感じがいいかなぁ……」

「ただいまー! 奏ー!」

「わっ!? おっ、お姉ちゃん!?」


 突然、姉が入ってきたことに動揺して、ブラシを落としてしまう。
 それを姉が拾い、それを慌ててもらおうとすると、「あれっ!?」と声を上げた。


「なっ、何?」

「もしかして、コンタクトしてる!?」

「え? う、うん……そうだけど」

「そっか、そっかー。ふーん?」

「え? な、何? 何なの、お姉ちゃん?」


 さっきからニヤニヤしているが、何か変なのだろうか?


 不安をよそに、姉は笑顔で私の頭を撫でた。


「そっかー! とうとう、奏に好きな人ができたんだね!? 相手は!? どんな子!?」

「えっ!? ち、違うよ!」

「いやいや、急にコンタクトとか変だと思ったのよ! 可愛く見られたいんでしょ? だったら、お姉ちゃんが手ほどきしてあげよう! ホントは奏には私だけの可愛い妹でいてほしいんだけどねー」


 私の姉・萌は妹に溺愛するシスコンだったりする。


「お、お姉ちゃん、待っ──」

「そうだなー。奏の髪って綺麗だからねー」


 私の髪を触って、見て、悩む姉だけの世界に、私の声は届かない。


「やっぱり、シンプルにストレートでいいんじゃない? 奏の髪って柔らかいから、アイロンかけてもなかなか決まらないし」
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