「──のカタチ」 - 01

 山下君と付き合いはじめて早3日。
 私の中ではまだ、実感が湧かずにいた。


「奏ー! ねえねえ、今度の土曜、ヒマ!?」

「えっ? 土曜日?」

「そっ。遊びに行こうよ!」

「うん、いいよ」

「やったね! 日曜日は彼氏と過ごすって相場が決まってるしねぇ」

「彼氏?」

「もう惚けちゃって〜。最近、山下と付き合ったばっかじゃん〜!」

「あ……そうだっけ……」

「うわぁ、幸せボケだよ、これ……」


 こうして友達とか他のクラスメイトに噂されないと、山下君と付き合っていることを忘れてしまいそうになる。


「おっ、山下ー!」

「あ? 何」


 先生に何やら呼び出されていた山下君が戻ってくると、今度は友達が山下君を呼ぶ。


「今度の土曜日、奏、借りて大丈夫?」

「土曜? 別にいいけど」

「よしっ、彼氏からの許可も得たから、これでうちらが怒られることはないね!」

「別に怒んねぇし……」

「えー。山下って、いざ付き合うと、独占欲強そうだし……。念のためだよ、念のため!」

「あっそ……」


 そして、友達は先に帰っていった。


 みんながいなくなると、山下君は後ろ首に腕を回して溜息を吐く。


「アイツら、お前より俺の性格判ってんじゃね?」

「あははは……」


 私はなんて答えたらいいんだ……。


「んじゃ、俺らも帰るか」

「は、はい」


 私たちはまるで当然のように下校する。


「帰ったら何すっかなぁ……」

「山下君って、暇そうですもんね」

「悪かったな。お前こそ……って、訊くまでもねぇか。姉貴とか母親がうるさそうだもんな」

「いいですよね、他人事で……」


 こうして、他愛ない会話をしていることさえも今でも信じられない。


 私は一体、何をすれば、何をしてもらえば、信じられるんだろう……。
- ナノ -