「俺と付き合ってよ」 - 01

 あのキスで、山下君のことが好きだと気づいてしまった私。
 けれど、もちろん告白する勇気なんかなくて……ズルズルと付き合っているフリが続いていた。


「はぁ……」


 昼休み、誰もいない屋上で一人、私だけのため息が響く。


 気づいたのはいいけど、どうしたら好きって言えるかなぁ……。


「山下君のことが好きです……」


 誰もいないことをいいことに小さく呟いてみせるが、しょせんは今だから言えること。
 これだけの言葉を、山下君だけに伝えるなんて……。


「そんなの、無理だよぉ……」

「奏ちゃんっ」

「わぁっ!?」


 背中に突然、声をかけられたことにびっくりして、大声を上げてしまった。


「おー、いいリアクションー」

「っ……芦屋、君……っ。驚かさないでください!」

「おー、奏ちゃんが怒ったぞー」

「誰に言ってるんですか!」

「あっはははー。なになに、こんなとこに一人で? あっ、俺がいなくて寂しかったとか!?」

「そんなことありません」

「うっわ、言われちゃったー。今、すっげー傷つけられたわー」

「すごいうそっぽいですね……」

「久しぶりにこんなにきっぱり! たまには優しい言葉もかけてほしいぐらいだけど?」

「これでも遠慮してます」

「そっかー。──そういえば、聞こえたよ?」

「何がですか?」

「ん? 山下のこと好きなんだって?」

「ホントに聞いたんですか……?」

「俺って耳がいいほうだよ?」

「そうですか……」


 からかいたいだけなんだろうか……。

 芦屋君って、ホント不思議な人……。


「ほっといてください……」

「んー? それはできないよ。俺、奏ちゃんのこと好きだし」

「そんなにサラッと言えるなんて、今の私にはうらやましいです……」

「ひどいなぁ。俺だって大真面目に言ってるんだけど」


 ぐいっと顎を掴まれたかと思えば、無理やり首を動かされて、芦屋君を見つめる形にされてしまう……。


「俺だって、好きな子には真面目に好きって言うよ」


 口調こそはいつも通りだが、表情は真剣そのもの……。


「奏ちゃん……好きだよ?」
- ナノ -