「私の秘密」 - 04

 準備室の札が見えると、山下君はそれを指差しながら私の方を見て「で、教材だったよな」と確認してくる。
 私はそれを「はい、そうです」と頷き返し、山下君は扉の前で止まってそれをガラガラと音を立てながら開ける。


 そうしたらすぐ、机の上に様々な道具が入った大小のダンボール2つが置かれていた。


「これみたいですね」


 中へ入り、そのテーブルに近づいて中身を確認すれば、やはり教材が入っていたので、間違いない。
 すると──ガチャリ、という音が聴こえた。


「え?」


 金属と金属とが噛み合う、おそらく鍵が閉まる音。
 それがどうして鳴ったのかと疑問に思い振り返ると、山下君の顔がすぐ近くにあって、一瞬だけ息が詰まる。
 それは先ほど先生に頼まれたときと同じパターンのはずなのに、私の脳は全然学習していないらしい。


「山下……君?」


 どうしたのかと訊きたいが、微笑を浮かべる相手に対してどうしてか怖いと感じた私は、後ずさる。
 しかし、山下君も私が下がった分の距離を詰めて、安心できる満足なテリトリーを取ることができない。


「あの、山下君……? 何──」


 後退すると、背中に固く冷たいコンクリートの壁にぶつかる。
 逃げ場を失ったその途端、ドンと音を立てて顔面の横に山下君の腕が伸びる。


 これって……壁ドン!?


 突然の少女マンガ的展開。
 どぎまぎしながら、山下君の面を見れば、微笑を浮かべながら伏せがちの目で私を見る──その表情はあまり見ないものだから、胸がトクン……と高鳴る。


 ど、どどど……どうしよう……!

 こっ、こういうときって、どうすればいいの!?


 こんな私が、普通ならば体験できない女の子が誰でも憧れるはずの『壁ドン』を、今まさに行われているなんて、心臓に悪すぎる。


「あ、あの……!」

「──ああ、悪ぃ」


 私を取り巻く環境、私を包む空気に耐えきれずに声を張り上げると、やっと山下君が離れてくれたおかげでふぅと一息吐く。


「じゃあ、俺はデカいの持ってくな」

「はい……」


 山下君は何事もなかったように教材の入った大きい方のダンボールを持っていき、ドアの前で片手に箱を持ちつつ、鍵と戸を開ける。
 私は気づかれないように呼吸を整え、小さいダンボールを持って山下君の背中を追いかける。


 び、びっくりした……。

 山下君とあんな距離でいたら、心臓が持たないよ……。


 どうしてあんなことをしたのか。
 これこそ訊きたいのに、やっぱり私にはそんな勇気はなく、ただただ山下君の大きな背中を見つめるしか方法はなかった。