「デートするぞ」 - 09

「ま、いいじゃねぇか。騙すのは身内からってことで」

「それはそれで心苦しいんですけど……」


 罪悪感というものはないのだろうか。


「ま、それはいいとして。とりあえず、隣の明星駅に行くぞ」

「は、はい……分かりました……」


 言われるがまま、山下君について行くことにした。


 電車に揺られて3分、明星駅に到着。
 ここは原宿に似ていて、若い人のトレンドが溢れているところだ。


「こっちだ」

「は、はい……」


 改札を出て、左に向かって歩いていくと、服関係のショップが建ち並ぶ通りになり、そのまま道沿いに歩いていくと、山下君が一つのお店の前に止まった。


「ここ」

「え? ここ……ですか?」


 周りのお店は賑わっているのに、このお店だけ客足が落ち着いたショップになっている。


「あの……ここで、何を?」

「ん? まあ、お前にオシャレってヤツを知ってもらおうって思ってな」

「えっ?」


 山下君はよく説明もせずにガラス扉を開けて入っていった。
 落ち着いているお店とは言え、オシャレなお店に気が引けてしまう。
 しかし、断ることもできずに、後を追って入店する。


「いらっしゃいませー。──あれ、真宙じゃん〜。いらっしゃいー」

「ん」


 応対してくれたのは、やっぱりオシャレな店員さんだった。
 ギャル系の美人だ。


「お? 何、その子〜。可愛い!」

「えっ? あ、ありがとうございます……」

「あたし、心歩ー。よろしくねぇ」

「は、はぁ……。坂下奏、です……」

「奏ちゃん! よろしくね〜。真宙とは付き合いが長くてねぇ。確か、遊んでた女子の誘いで初めて来たから……3年? ぐらいの付き合いだね〜」

「余計なこと言うなよ……」


 心歩さんの頭に、山下君のチョップが落ちた。


「ちょっ、暴力反対だから! ──はぁ、分かったってば……そう、睨まないでよ、怖いなぁ……」

「さっさとそうしろ。とりあえず、コイツに似合うの、いろいろ着せてやってくれ」

「お? 珍しいねぇ、女の子にそんなことするなんてぇ。随分とご無沙汰してたのは、なんかあって?」

「うるせぇよ」

「はいはい、分かりましたよ〜。じゃあ、奏ちゃん。こっち、来て来て〜」

「は、はぁ……」


 よく分からない展開になってきたが、山下君は心歩さんとの付き合いが長いらしいとのこと、そして、このあと着せ替え人形のようにされることだけは分かった。