「こんな展開ですか!?」 - 04

 かばんを持って立ち上がった山下君は芦屋君を嘲笑した表情のままで、こちらにゆっくり歩み寄る。


「どうせ、俺らの話聞いてたんだろ? それをネタに脅して坂下に近づいた……違うか?」

「だから、何?」


 そして、二人の距離が縮まったと同時に、沈黙が十数秒続いたのちに口を開いたのは──芦屋君だった。


「ま、とりあえずはさ……一緒に帰ろうよ。山下」

「は?」

「え?」


 パッと私の左肩を掴んでいた手が離れ、芦屋君と適度な距離を取った。


「ほら、見たろ? 奏ちゃんがこうやって警戒心解いてくれないわけ。三人で帰れば多少は打ち解けてくれるだろ」


 まさかの芦屋君の提案に目を点にした山下君だったが、山下君も呆れてか、「勝手にしろ」と言い残して歩き出す。


「あ。坂下、かばん」

「え? あ……ありがとうございます……」


 踵を返して持っていたかばんを差し出した山下君。
 どうやら、そのバッグは私のものだったらしく、驚きながらも受け取る。


「へぇ、意外と優しいのな」

「うるせぇな。さっさと帰るぞ」

「へいへい。ほら、奏ちゃんも帰ろうよ」

「あ……はい……」


 なんだか……変な展開になっちゃったなぁ……。


 仕方なく二人の後ろを歩くが、二人の空気に微妙にピリピリとしたものが混ざっていて、いたたまれない……。


「そういや、山下も噂聞かないけど?」

「お前よりかはマシな噂だろ」

「ひでー」


 なんだって、そんな普通に会話できるんですか……。

 こういうときに限って、芦屋君のコミュニケーション能力の高さをうらやむ。


「そうそう。奏ちゃんを初めて抱いてどうだった?」

「はぁ?」

「な……何言ってるんですか!?」

「だって気になるじゃん〜」

「別に……抱いてねぇし」

「あ〜そっかぁ。でもさ、奏ちゃんの肌ってすげー白くて、柔らかくて……」

「べらべら喋ってんじゃねぇよ」

「でも、事実だろ?」


 勝ち誇ったような笑みで山下君を挑発してみせると、山下君は触発されて睨み返す。


「……胸糞悪くなった。帰る」

「最後までいてくれよって言ってんじゃん」

「うるせぇよ」


 山下君はよっぽど腹を立てたのか、足早に昇降口の方向へ言ってしまった。
- ナノ -