「私の秘密」 - X1

 ──鼻につく、あの匂いが忘れられない……。


 思わず鼻に手を伸ばし、そのままの体勢で歩く。


「オイ、大丈夫かよ? 真宙」

「あ? ああ、別に平気」


 声をかけられたことでハッと我に返り、その手をスラックスのポケットに押し込んだ。


 ビビったぁ……。

 まさか、坂下とぶつかるとはな……。


 マンガを読むヤツなら「ラブイベント発生!」とかなんとか言うのだろうが、現実なんてそんなものだ。


 坂下は本当に目立たない、言わば地味な女だ。
 だが、だからと言って、なんとも思わない。


 よくマンガで見る設定だ。
 眼鏡を外した素顔は可愛いだとか、少しだけ弄ってやれば人気者になったりと。
 果たして、それは現実となるのか、それともただの虚構に過ぎないのか。
 ──それにすら特段、思うことはない。


 ただ──


「それにしても、あのメガネっ子、ホント地味だよなー」

「ホントだよなー! あんな女に迫られても、全然勃たねぇわ」


 ゲラゲラと二人が笑う。
 まあ、別に否定はしないが。


「あ。でも、ああいう地味な女って、意外とエロいとか聞くよなー。あれ、ホントか?」

「どうなん、真宙?」

「さあ、知らね。俺も興味ねぇし」

「マジかー。でも、試したいとかは思わねぇよな!」

「まあな」


 少なからず、そう思っていた。
 でも、あの匂いが忘れられずにいる俺は、少しだけ坂下に興味を抱いていた。
 まさかとは思うが、それでも確かめずにはいられない。


 ホントは今日、ヤル気なかったけど……試してみるか──。
- ナノ -