「よろしくね」 - 12

「ふぁっ……!」


 頭の中が痺れて……体の中でずくん──ずくん──と熱が暴れている。


「や……っ」


 一人でオモチャでイクときよりもふわふわと不安定で、溺れていくような感覚がすごい怖い……。
 視界がぼやけて、朧気な世界の中、堪らずに芦屋君の腕を掴む。


「気持ちいいでしょ? 俺、山下より優しく抱ける自信あるよ」

「え……?」

「ま、山下ほどじゃないけどさ、女はいくらも抱いてきたし……。今までのはつまんなかったけど、奏ちゃんなら最後まで抱いてあげる」

「今までの……女の子って……?」

「あー。その様子じゃ、俺のこと、知らないんだ? ──まあ、いいじゃん。そんなことは。俺がいくらヤリ捨ててきた過去なんてさ」


 ヤリ、捨て……。

 つまり、その中で芦屋君に好意を抱いてくれている子がいたとしても、芦屋君は一回したらそれだけの関係なの……?

 確かに、山下君も同じことをしている。

 なのに、どうして、芦屋君が言うと──


「ひどいじゃないですか……」

「え?」


 掴んでいたはずの手を離し、私は咄嗟に芦屋君の頬を打った。
 パァンッ──と乾いた音だけが響いて、殴られた芦屋君は呆けたまま停止する。


「いってぇな……。何すんだよ!」


 しばらくして、やっと引っぱたかれたことを認識したのか、すごい剣幕でいかる。
 そんな芦屋君に不思議と恐怖を感じなかった。


「ひどい……! 捨てられた子の気持ち、考えたことがないんですか!? 芦屋君だからいいって……好きだからいいって思ってくれた子もいたはずなのに……っ」


 ツーと暖かいよりは少し熱い涙が流れる。
 もちろん、どんな気持ちだったかなんて私には分からない、けれども、芦屋君のことを信頼していたのに簡単に裏切られてしまうなんて……あんまりだ。


「何……泣いて……」

「……っ、もう返してもらわなくていいです! 戻ります!」


 力を振り絞って芦屋君を振り払って、机から降り、未だに動くローターに逆らってフラフラしながらドアを開けた。


 芦屋君がこんな人だったなんて、想像していなかった……。

 優しい人だなって思っていたのに……違ったんだ。

 今までの子と同じようにヤリ捨てるつもりだったんだ……。
- ナノ -