「よろしくね」 - 10

「えっ? ──んん!?」


 そのまま、唇を奪われてしまった。


「芦屋……んっ」


 離れ、少し見つめられてから、再び口唇を重ねてくると、顔を交差させながら深く口づけられる……。


「んや……っ、や、やだぁ……っ」


 片腕だけ突っぱねてみるが、もちろん、なんの役に立つこともない。
 さらに虚しいことに、唯一自由になっていたその腕も引っ張られ、もともと捕まっていた腕とともに一本にまとめられてしまう。
 そして、芦屋君の脚に体を乗せるように、加えて密着するような形になり、恥ずかしさが込み上げてくる……。


「やぁ……っ、んん!」


 固く閉ざしていたはずの口の合間を縫って舌を差し入れ、歯茎を何度もなぞっては私の舌を捉えて──放さない。


「っはぁっ……」

「はぁ……いい顔」


 芦屋君の顔が離れたときに溢れ出る私の唾液を口から舐めていき、顎から首筋へ動く。


「や……っ──ん、や、何……っ」


 ちゅぅ……吸いつかれたかと思えば、鈍い痛みが走る。


「何し、て……?」

「ん? ヒミツ」


 にこりと笑ってみせた芦屋君はポケットの中に手を突っ込み、私のものであるオモチャを取り出した。


「返してあげる。でも──その前にさ、またあのときみたいにイってみせてよ」

「え?」

「だって、オモチャでならイケるんでしょ? 奏ちゃんのイキ顔、見せてよ」


 そう言われて、危険を察知した私はよろめきながら芦屋君の体から降りる。


「で、でも……リモコンは山下君が──」

「これのこと?」


 ローターを取り出した方とは反対のポケットからリモコンを取り出してくる。
 返してもらっていないはずなのに、どうして芦屋君が持っているのだろうと目を大きくすると、相手はまた笑みを浮かべる。


「ま、ちょっと山下のブレザー探っただけ」

「ぬ、盗んだんですか!?」


 チャンスがあったとすれば、体育の授業中だ。
 何かと理由をつけて途中で抜け出したのだと思う。


「まあね。ま、気にしないでよ。ね?」

「やっ!?」


 笑顔でスカートの中、そして下着の中に手を入れてきた芦屋君はローターを置き去りにして、手を戻す。
 おそらく芦屋君の笑顔は人を油断させるための道具なのだろう。


「や……っ、やめて下さい……っ」

「ん? ──やだ」
- ナノ -