「よろしくね」 - 07

「──行ってきまーす!」

「行ってらっしゃーい! 山下君によろしくね!」

「知らない!」

「あっ、奏! 私も行くから!」


 姉とともに玄関を出ると、門の前に立っている人影があった。
 しかし、誰なのかはすぐに分かった。
 短髪よりは少し長めのダークブラウンの髪が何よりも、私の予感を的中させる。


「芦屋君……?」

「芦屋君?」


 私たちの声に気がついたその人が振り返ると、案の定、芦屋君だったのだ。
 にこりと笑ってから、頭を下げる。


「おはよ、奏ちゃん。あと……お姉さん? おはようございます」

「あ……お、おはよう……。何? 奏の友達?」

「え……あー……」

「はい、友達です。ねっ?」


 いやいやながらも首を縦に振る。


「今日は一緒に登校しようって思って」

「そ、そうだったの……。よろしくね、奏のこと」

「はい」

「萌ー! アンタ、忘れ物──あら?」


 今度はバタバタ忙しない足音のあと、勢いよく玄関のドアを開けた母が出てきてしまった。
 イケメンを見つけた母は一瞬、フリーズしてから、持っていたハンカチを姉に渡す。


「わ、忘れ物よ。──それに、あなた……?」

「あっ、お母さんですか? 僕、奏さんの友達、芦屋望です」

「あ、あら……そうなの……。こんな娘だけど、よろしくねー」


 こんな娘って……私は今からお嫁さんにでもなるんですか?

 そんなツッコミを心中でしながら、しばらく談笑する三人に今度こそ口でツッコミを入れる。


「あの……もう、学校行かないと……」

「あら!」

「あっ、私も仕事に遅刻しちゃう!」

「あ、すみません……。じゃあ、学校行ってきます。失礼します」

「はーい。よろしくねー」


 芦屋君と一緒に家を後にする。
 離れていくその間に、二人の様子を伺うと、これまた予想どおりに大盛り上がりしていた。
 これはまた、質問の嵐だとがっくりと肩を落とした。


「って! っていうか、なんで家に来るんですか!」

「ん? ああ、ちゃんとご挨拶しなきゃって思って。さすがにお父さんには会えなかったけどなー」

「だから、なんで来るんですか!」

「いやいや、形だけでもって思って」

「もー……余計なことを……」


 また、静かな食事を奪われた……。