「よろしくね」 - 06

「ああっ!」


 制服から部屋着へ着替えるうち、オモチャや下着を返してもらうのを今さらになって思い出した。


「どうしよう……」


 アプリを開いて、登録された芦屋君のIDをにらめっこして数分、逆に向こうから連絡がやってきたのだ。


「わっ……これ、私の……!」


 メッセージとともに送られてきた写真は、まさかの返しそびれたあのセットだった。
 そして、添えられたメッセージは「忘れ物だよ」──。


「芦屋君……」


 この人も、いい性格してないな……。

 明日こそは返してもらおうと既読スルーしたのだった。


 はぁ……なんで、こんなことになっちゃってるの?

 これなら、まだ地味だったほうがマシだったよぉ……。


「奏ー? 夕飯できたよー!」

「あ、はーい!」


 姉に呼ばれて、急いで着替えて下へ降りる。


「ごめんっ」

「まだ大丈夫だよー。それに、今日はお父さんも遅いし」

「あっ、そうなんだ……」

「そうそう。のんびり食べてても平気よ! だから、山下君のこと、もっと聞かせてちょうだい!」

「また、それぇ!? もうないってば〜!」

「まだあるでしょう!? 好きなこととか!」

「聞いてどうするの!」

「そんなぁ……残念……」

「はいはい……」


 家にいるときは忘れさせてほしい……。


「山下君、どんな料理が好きかしらね?」

「うーん……。結構、細かったから、あんまりお肉は食べないんじゃない?」

「そっかぁー。お父さんとは大違いねぇ」


 私が食事している最中も、二人は山下君のことばかり話していて、全く箸が動かない。
 おまけには、仕事をがんばってくれている父親がディスられている始末だ……。


 お父さん……私は、お父さんの味方だからね……。

 ──なんて思いながら、恋バナに夢中な女子高生のように盛り上がる母と姉を後目に、私はそっと席を外したのだった。