「オレの×××」 - 06

 授業が始まり、現国の朗読が開始される。
 私はその時間を利用して、山下君にそっと質問する。


「あの……山下君?」

「ん?」

「なんで、そこにしたんですか?」

「ん? いや、きっとお前ならここだろうなって思っただけだ」

「どうしてですか? もしかしたら、ここじゃないかもしれないのに……」

「何となくだよ」


 なんとなくって……言葉こそ自信なさげだが、表情で分かる。
 どうしてそんなに自信満々なんだろうか、と。


「そういや、今日は何か持ってきてんの?」

「え?」

「お前の好きなモノ。」

「えっ……」


 改めて言われると、恥ずかしいワードだ……。


「いえ、今日は……。ちょっと髪に苦戦して……」

「ふーん」


 正直言って、持っていくことに気が引けてしまった。
 どうせ、山下君に奪われて遊ばれるだろうと思い……。


「毎日、持ってきてるわけじゃねぇんだ?」

「そ、そんな毎日持ってきたら、持ち物検査に引っかかちゃうかもしれないじゃないですかぁ……」

「ちゃんと考えてんだ?」

「当たり前です」

「ホント、変なやつ」


 山下君が小さく笑う。
 どこに笑いどころがあったのか、私には全く分からない。


「そんなにおもしろいですか……?」

「俺はな」

「次のとこは……山下。たまには読め」



 不意に朗読しろと振られた山下君は不服そうに眉を顰めたが、しぶしぶ起立して読み始める。
 私なんてどこを読んでいたのか聞いていなかったのに、山下君は淡々と読んでいた。


「次は……田中」


 担任の先生は少し不満そうに思いながら、朗読者を変えたのだった。


 それからは、私たちが会話することなく、一限目の授業の時間は過ぎていった。