「オレの×××」 - 05

「みんな、引いたなー? じゃあ、移動しろー」


 私や一部の人以外が一斉に動き出す様を見つめ、隣にやってくるのが誰だろうと考える。
 とは言え、隣とは話をすることはないだろうが……。


「よろしく」

「えっ?」


 不意に声をかけられたかと思えば、隣には自分の机を持つ山下君の姿があった……。

 嘘っ、山下君……!?


「と、隣なんですか……?」

「お生憎な」


 そんなぁ〜。

 山下君が隣だったら、いつもの時間も過ごせない。
 おまけに、山下君の周囲には人だかりができる、簡単にトイレに行くこともできない。


 落胆する中、席替えが終了したらしく「よーし、移動したなぁ?」と担任が確認する。
 周囲を見渡してしばらくすると、一人の女子生徒が挙手した。


「先生、席を変えてもらってもいいですかぁ?」

「ん? そうか。どこがいいんだ?」

「坂下さんの席がいいです」

「えっ?」


 その女子は、確かに羨ましそうに私の席を見つめていた。
 明らかに山下君の隣席狙いだ。
 もちろん、指名された側にも拒否権はあるし、その権利は私にもある。
 けれども、そんな勇気はない……。


「じゃ、じゃあ──」

「じゃあ、俺も」

「えっ?」


 頷こうとした時、隣の山下君がすっと立ち上がって、ジョーカーを掲げた。


「俺はスペードのキングのところがいいな」

「えっ!?」


 山下君が席を指名したのは、扉にすぐ近い席だ。


「もともと、扉のとこがよかったんだけど、こっちもいいなって思って」

「えっ……ちょ、ちょっと……」

「なあ、どうよ。梨田」


 指名した席に座る梨田君が驚いたように山下君を見つめ……首を振った。


「そっか。悪かったな」


 山下君はあっさり引き、再び着席したかと思えば、私の方をちらりと一瞥した後に口パクで「断れ」と指令する。
 確かに、山下君も梨田君に拒否された、ここで私が断ったとしても反感は買いにくい。


「えっと……」とは言え、すぐに言葉は出てこない。


 そのせいなのか、交渉してきた女子は少ししてから「ごめんね、坂下さん。やっぱりいいや」と自ら引いたのだった。
 意外とすぐに諦められたことや、もっと食い下がられたら、やっぱり譲ろうかと考えてもいたところだったので、思いがけない言葉に素っ頓狂な声を上げてしまう。


「えっ? あっ……そ、そうですか?」

「うん、ごめんね」

「いえ……」

「じゃあ、決まったな。──ってことで、授業始めるぞー」
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