「オレの×××」 - 04

 山下君の一言にまるで凍りついたように一瞬、誰も動かなかったが、少ししてざわざわと教室がどよめく。


「──嘘……坂下さん!?」

「ヤバい、全然気がつかなかった……マジびっくりなんだけど!」

「マジに坂下!?」


 一斉に私のことを見だして、顔が熱くなる。
 こんなに注目されたことがなかったら、困惑するしかない。


「そ、そうです……」

「うわ、マジか!」

「坂下さんってば、なんで早くそうしなかったの!」

「えっと……」


 ここで山下君にそうしろと言われました、なんて言えるはずもない。
 少なからず、女子にはよく思われない。


「別にいいんじゃねぇの、んなこと。コイツの勝手だろ」


 どうしようと困っていると、そっけなく放った山下君の言葉に、みんな返す言葉がなかった。
 再度、静かになったクラスメイトに向かって「邪魔」とだけ言って、山下君は自分の席に着席したのだった。


 クラスの中心とも言える山下君にそう言われては、追及しない方がいいと考えた生徒全員は思い思いに着席すると、予鈴と同時にホームルームの時間が始まった。


 担任が点呼を取っている最中、私は真ん中の列の後ろより三番目の席──山下君の背中を見つめながら「ありがとう」と心中で唱えた。


「さて、と。今日はせっかく全員揃ってるし……席替えでもするか!」

「席替え!? さんせー!」


 ざっと今日のスケジュールを話したあと、担任の突然の提案に、私は固まるしかなかった。


 私の席は、窓側の一番後ろ。
 つまりは、私にとってはベストポジションだったのに。


 また、この席がいいなぁ……。


「じゃあ、まずは女子からなぁ」


 この担任教師の場合、席に記号と番号を振って生徒が引いたトランプの記号と数字が席に割り当てられた場所が次の場所になる方法だ。
 女子ならハートとダイヤ、男子ならスペードとクローバーと言った感じだ。
 さらには、男女のトランプのうちにジョーカーが入っており、、ジョーカーを当てれば好きな席に座れるシステムだ。


 窓側の一番後ろ……来て!


 順番が回ってきて、先生からトランプを引くと……なんと、また同じ席!


 やったぁ……!


 なんとか危機を脱せたようでよかった……。
- ナノ -