「オレの×××」 - 03

 翌朝、姉からアイロンを借りて髪をストレートに下ろし、コンタクトにしていざ制服を着た姿を鏡に映すと、普段とは違う雰囲気になっているのがなんだか気恥ずかしい。


 こ、これで大丈夫かな……。

 いつもと違うから、不安……。


「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい! いいわね、奏! 可愛いわ!」

「あ、ありがとう」

「萌にも見せてあげたかったわー」

「そ、それはいい……」


 せっかくスタイリングしたというのに、思いきり抱きつかれ、頭を撫で回されそうだ。


「気をつけてね!」

「はーい」


 玄関を出ると、眩しい陽を射してくる暖かい太陽が出迎えてくれる。
 そんな中、ふわふわと地に足がついていないような不安が少しだけ和らいだように思えた。


 山下君に何か言われるよりはマシだ!


 半分、やけになりながら、学校へ向かった。


「おはよー!」

「おはよー! ねえ、昨日の、『ワーナー』観た!?」


 今日も賑やかな自分が在籍する教室のあともう少しというところで、緊張のせいでバクバクと心臓が大きく鳴る。
 こんな私が突然、イメージチェンジなんて……笑われないだろうか。
 本当に大丈夫かな……。


「邪魔。」

「えっ!? ご、ごめんなさい……っ! ──あ」


 頭上から低い声で文句を言われたものだから、反応して体を左へ動かすと、声をかけた主──山下君が立っている。
 私にイメージチェンジをしろと言った、本人が……。


「何、突っ立ってんの」

「え……あ、ごめんなさい……わっ!」


 再び謝罪してすぐ、背中を多分山下君に押され、教室に飛び込む形になってしまった。
 普段なら注目されるはずのない私だったが、突然の登場にクラスメイト全員の視線が突き刺さる。


 視線がものすごい痛いんですけど……。


「えっ? 誰……?」


 しばらく静かだった教室に、誰かがそう呟いた気がした。
 普通なら、そんな発言はマンガの中だろうと思うが、それだけ私は地味な存在だったとも言える。


「あ……えっ、と……」

「何? 気づかないわけ? コイツ、坂下だけど」
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