「俺かよ!?」 - X2

 何かの間違いだ。
 率直な感想はそれだった。
 何せ、奏のほうからキスされたことなんてこれっぽっちもなかったし、それもよしとも思っていたからだ。


 なのに、あの奏が──おまけに恥ずかしがることもなく、淡々と俺がやってきたことをやってのけてみせる。
 何の躊躇もなく、顔を交差させて唇を強く押しつけ、時折舌で唇を舐められ、それを何度か繰り返したかと思えば、舌を差し入れてくる。
 そうして、歯茎などを舌で犯し、俺の舌を撫でてくる。
 ほぼ俺がやってきたことだが、ときどき唇を舐めるその仕草は奏のオリジナルなのか、そこには焦れったさがあり、忘れた頃にそれをされるので、気持ちいいと感じてしまう。

 コイツ……こんなキスができたのかよ……。


 しかし、感心も感嘆もしている場合ではない。
 明らかに奏の様子が違う。


「はぁっ……奏……っ」


 体が熱い。
 たかだかこれキスだけで感じてしまうなんて、俺も人のことを言えない。


「ご……ごめんなさい……っ」

「べ、別に謝ることじゃ……」

「ち、違います……っ」


 やっと声が聞けた……そう思ったが、その声は熱に浮かされたようにはっきりせず、依然として息が荒く頬が上気している。
 何度も思うが、やはり様子が違う。


「何したんだよ、一体……」

「分からないんです……。ただ──この前、いつもオモチャでお世話になっている会社から……ご愛顧キャンペーンとして送られてきたジュース飲んだら……急に眠くなっちゃって……起きたら、すごく体が熱くなってて……我慢できないんです……っ」

「ジュース……?」


 奏が指差した方向──俺から見てほぼ真正面に、奏からは真後ろ──には、確かにいかがわしいピンク色のジュースが入ったボトルがあった。


「それで我慢できないって……媚薬じゃね? それ」

「えっ!? そうなんですか!?」

「いや、俺も実物は知らねぇけど……でも、聞いた限り、それしかねぇだろ。にしても、ホントにあるんだな、媚薬とかって」

「そ、そうだったんですか……」

「何? じゃあ、敏感になってるとか……あるわけ?」

「わ、分からない……ひゃあっ!?」


 試しに腰をそっと撫でてみたが、それだけで俺の体にまで振動を感じるほど奏の体がビクビクッと震えた。