「うぜぇよ!」 - 02

「──ったく、こんなところでよくやるよ」

「えっ? ──きゃああぁぁっ!?」


 ぼんやりと山下君がベルトを外すところを見ていた途端、いつの間にそこにいたのか、出入口からすぐに離れた場所で芦屋君が頬杖をついてあぐらをかいて座っていた。


「何でいんだよ!?」


 山下君はベルトを元に戻してから芦屋君と向かい合う。


「俺だって昼飯食いに来たの。そしたら、何? こんなとこで盛りがついた犬みたいにがっついちゃって。──なあ? 奏ちゃん?」

「えっ……」


 私も乱れていた服を直していると、突然、話を振られたので言葉に詰まる。

 確かに……ところ構わずは困るんだけど……。


「ま、とりあえず、いいや。邪魔したね。昼は他で食うや」

「オイ、芦屋!」


 よっこらっしょと立ち上がった芦屋君を、山下君は呼び止める。


 芦屋君は体こそはそのまま前進を目指す形で、顔だけこちらに向ける。


「何? 怖〜い顔、しちゃってさ?」

「お前、まだ……」

「まだ? 奏ちゃんが好きかって? ──ははっ、ないない。言ったじゃん? 俺は昼飯食いに来ただけだって。たまたまだよ、たまたま。──じゃあなー」


 芦屋君はへらっと笑って、顔を戻すと手をひらひらと風になびかせるように振って帰っていった。


「ったく……何なんだよ、アイツ……。すっかり萎えたぜ」

「はは……」


 確かに、久しぶりに会った気がした。


「戻るか。そろそろ授業始まるし」

「そ、そうですね」


 芦屋君のことが気になった。
 この前は山下君にあんなところを見せてしまったし、芦屋君も傷つけた。

 そういえば……芦屋君に謝ってなかったな……。


「奏!」

「えっ! な、なんですか?」

「何、ぼーっとしてんだよ?」

「あっ……そういえば、芦屋君に謝ってなかったなって……」

「謝る? 何を?」

「何をって……だってあの日……」

「何言ってんだ? あれはアイツが悪いんだろ?」

「で、でも……!」

「お前、考えすぎ。あっちだって自分が悪いと思ってたんだから、今まで俺たちの前に姿を現さなかった。それだけだ」


 山下君は尚も気にするなと言う。
 けれど、あのとき、私がきちんと拒否することができたら、芦屋君が傷つくことはなかったと思うと、少し罪悪感が残った。
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