「──のカタチ」 - 06

「お前……リアクション、おもしれ……っ」

「っ、〜〜っ! ひどいです……っ」


 ああ……穴があったら入りたい。


 山下君はひとしきり笑い終え、お腹を抱えながら息を思いっきり吐き出した。



「で? これ、何で買ったんだよ? お前、もうオモチャでイケねぇつってたじゃん」

「そ、それは……その……」

「言わねぇと……お仕置だけど?」

「う……。えっと……その──す、少しでも……慣れておこうっと、思って……」

「何に?」

「だから……あのとき痛かったし……少しでも広げよう──って……」


 は、恥ずかしいよぅ……!


 私は熱くなった顔を、たまらず両手で覆った。
 穴があったら入りたいどころか、このまま山下君の前から消えてしまいたいぐらい……。


 もう、これ以上言うこともないし、できなかったので黙っているが、山下君のほうも声をかけてくる気配がない。
 羞恥心に押し負けながらも、ちら、と指の間から山下君の様子を窺う。
 無表情というか、いつも通りの表情で、私をじーっと凝視している。


 しかし、次に何を言えば分からずに沈黙は続く。
 その沈黙は数分も流れて、やっと口を開いたのは私のほうだった。


「な……何か言って下さい……」

「あ? ──あー……そうだな……」


 山下君はどこか困惑したように渋る。


「えーと? この前……そんなに痛かったか?」

「え? は、はい……最初だけ、でしたけど」

「ふーん……。じゃあ、今なら大丈夫じゃね?」

「え?」

「だって、そのあとはよかった──ってことだろ?」

「え……は、はい……」


 そこは掘らないでほしい……。


「それにさ……。お前……別に、こんなのに頼んなくてもいいだろ……。俺っていう人間がいんのに……」

「は、はあ……」

「微妙に傷ついたぞ……。そんなに痛かったのかって……。それなりに経験あるし、それなりに気持ちよくさせてきたってのに……」

「き、傷ついて……?」


 山下君の声がどんどん沈んでいく。
 そんなにショックだったのだろうか。


「当たり前だろ……。あのとき、初めて『気持ちよくさせてぇ』なんて思ったのに……すげーアホらしいわ……」

「ご、ごめんなさい……」


 そ、そうだったんだ……。

 だから、あんなにゆっくりやってくれたのか……。


 あのクールな山下君が、目の前でショックを受けている様子をまざまざと見せつけられ、いかに自分が軽薄かを思い知った。
 山下君は、山下君なりに私のことを考えてくれていたのに。