「──のカタチ」 - 04

 山下君も首を縦に振ってしまった以上、無下にできずに2階の自室に二人で入った。


「いやー。マジでおもしれぇな、あの母娘」

「まさか、こんな早く来るとは思ってませんでした……」

「俺もだって。マジにたまたまだったし」

「そ、そうですか……」


 コートをハンガーにかけながら、それとなく周囲を確認してみるが、動かされた気配はない。
 荷物はベッドの下に置いてあるので、多分、気づかれていない……。


「そういや、今日は遊びに行ってたんだっけか? 早くね?」

「あ……。今日は午後に急用の友達がいたので、早く帰ってきたんです」

「ふーん。俺のときなんか、ゲーセンざんまいだかんな……少し羨ましい気もするわ。こちとら早く帰りてぇのに……」

「あははは……それは災難ですね……」


 そっか、男子ってゲーセンばっかりなんだ……。

 女子って、行動パターン多いからな……そういう意味では楽そう。


「おやつ、持ってきたわよー」

「ありがとう、お母さん」


 扉を開けた母からケーキと紅茶をもらう。


「このケーキ、美味しいのよー。どうぞ食べてね」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ、私は退散するわね! 邪魔しちゃ悪いから」

「ちょっ……お母さん!」


 ベタに「うふふー!」と笑いながら、扉を閉めた母。
 この短い会話でどっと疲れが押し寄せた気がした。


「ホント、おもしれぇな……」

「そんなにおもしろがられるなんて、ホントにうらやましいです」

「まあまあ。遠慮なく、ケーキもらおうじゃねぇの。俺、チョコで」

「はいはい……どうぞ」


 ミニテーブルにそれぞれセットとして置き、山下君はケーキに、私はのどが乾いたので紅茶をいただく。
 そして、私はショートケーキのいちごを食べて、落ち着く。


「いちご、先に食うタイプか」

「好きなものは先に食べます」

「俺とは真逆だなー」

「へー、意外です」


 そもそも、そんなタイプにも見えない──とは言えない。


「確かに美味かったな、ケーキ」

「そうですね」


 山下君はあっという間にケーキを食べてしまった。
 男子は甘いものが苦手とよく聞くが、山下君はそうではないらしい。
- ナノ -