「私の秘密」 - 08

 山下君の指がまた中で動けば、鈍い痛みが弾ける。


「いやっ、……痛い、痛い……っ」

「痛いって……」


 最初は疑っていた山下君も、演技ではなく本気で痛がっているとようやく分かってくれたのか、指を引き抜く。


「坂下……処女?」


 山下君のまさか──という声によって、かぁっと顔が一気に熱を持つ。
 同時に、目尻も熱くなり、涙腺が決壊したように次から次へと雫が溢れ出る。


「ごめん、なさ……っ」

「マジ……?」

「はい……っ」


 今までエッチなんてしたことはない。
 そもそも彼氏がいたことがないのに、経験なんてできるはずもない。


「お前なぁ……普通、逆だろ」


 呆れて溜息をつく山下君。
 私は嗚咽を上げながら、話す。


「だって……ひっく、私、こんなだから……どうせ、恋なんか……できないです……う〜っ」

「あー、もう。泣くな泣くな。俺が悪かった。だから、泣きやめ」

「ひっく、……う、う……っ」


 それでも涙が止まらずに、山下君が面倒だと言わんばかりにはぁ──と大きな溜息を吐く。


「泣きやめっての」

「はい……っ」


 叱責され、やっと深呼吸して何とか息を整えた私は、少しずつではあるが、嗚咽もようやく止まった。


「ったく……。処女のくせに、オモチャが好きって……。変わってんな、お前は」

「う……。もう、それ以上、突っ込まないでください……」


 確かに普通ならば、エッチが最初に来るだろうが、私は残念ながら逆転してしまったのだから、それは仕方ない。


「ホント、よくあんなに濡らせるな。処女のくせに」

「あう……」


『処女のくせに』が気のせいか強調されたように思え、ぐさりと胸に突き刺さる。


「だって……」

「泣くな」

「はっ、はいっ」


 目がじんわり熱くなったかと思えば、山下君がぴしゃりと言ってくれたおかげで事なきを得る。


「はぁ……。何? 坂下は好きなヤツとかいんの?」

「ええっ! い、いないですっ、いるわけありません!」

「いるわけねぇって……ははっ、おもしれぇ」


 山下君に乾いた笑い声を上げられ、なぜ笑われたのかと戸惑う。
 気が済んだのか、すぐに笑いを止めて、私をまっすぐに見つめてくる。


「じゃあ、恋とかしたくねぇの?」

「そ、それは……っ、したい……です……」

「声ちっちゃ!」

「うっ……」


 さっきから私、からかわれてる気がする……。


「結構、坂下っておもしれぇのな」

「そ、そうですか?」

「ああ、すげぇおもしれぇわ」

「は、はあ……」


 一体、どこがおもしろいのかと疑うばかりだが、どうやらそう評価されたらしい。
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