「好きです」 - 16

「うるせぇな……」

「いやいや……確かにそんな雰囲気あったけど、まさかこんなにも早く付き合うなんて思ってなかったもん! へえ……そんなに好きだったわけ? 真宙クン?」

「うぜ……」

「奏ちゃんもよかったねー! おめでとう!」

「あ、ありがとうございます……」

「じゃあね! 私もこれからデートなんだよねぇ! またお店に来てね!」

「さっさと別れちまえ」

「ちょっ、呪いの言葉!」


 心歩さんはまるで嵐のように、私たちの行き先とは反対の、人混みへ消えていった。


「あ、相変わらずパワフルですね……」

「ただうぜぇだけだ……ったく、ぶち壊しやがって。さっさと帰るぞ。そのうち戻ってくるかもしんねー」

「それはないんじゃ……」


 山下君は本当にそう思っているのか、私の腕をぐいぐいと引っ張っていった。


 電車に揺られて、「家まで送る」と頑なに譲らなかった山下君の押しに負けて、学校の最寄り駅でもある湘南駅で降りた。


「あの……本当に大丈夫なんですけど」

「お前も頑固だな。送るっつったら送るっての。それに、こんな夜道で一人で帰らせたら、あのシスコン姉貴に怒られそうだし」

「ま、まあ確かにそうなんですけど……」


 私もあとで根掘り葉掘り訊かれるよりはマシかもしれない……そう思って、ここは折れておくことにした。


「ごめんなさい、送ってもらっちゃって……」

「いいよ、別に。それに──この方が長く一緒にいられるだろ?」

「えっ……!」


 私が驚いたのと同時に、山下君はまた手を握ってきて、私の顔を微笑みながら見る。


「はっ、顔真っ赤」

「ず、ずるいです……」

「やっぱおもしれぇな」

「そうやって、私をからかい続けるつもりですか?」

「だっておもしれぇし」

「えぇ……」


 少しは手加減してくれないかな……。


「まあ、そのうち慣れんだろ?」

「多分、無理です……」

「へえ。じゃ、一生からかってやろう」

「それだけはやめてください!」


 山下君は相変わらず笑う。
 笑われて悔しいはずなのに、そんな楽しそうに笑ってくれると、なんかどうでもよくなってしまう。


 けれど、どちらにせよ、山下君の意地悪に慣れないと、本当にからかい続けそうだ……うん、慣れよう。
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