「好きです」 - 15

 ホテルに出ると、もう辺りは真っ暗になっていた。
 無理もない。
 時間はもう18時を過ぎている。


 門限とかがあるわけではないが、何よりも怖いのは「どうしたの!?」とニヤニヤしながら質問してくるあの母親と姉の顔が頭から離れない。


「遅くなっちまったな……。家は大丈夫か?」

「だ、大丈夫です」

「あっそ。あの姉貴ならすごい焦りそうだけど……」

「いえ、多分わくわくしてるかと……」

「はっ、マジで? やっぱおもしれぇのな、お前の姉貴」

「お姉ちゃんだけならいいんですけど、お姉ちゃんの性格はお母さん似だから……」

「マジか。マジおもしれぇ」

「笑いごとじゃないです……」


 また恥ずかしい思いをしてしまった。


「いいじゃん、楽しそうでさ。会ってみてぇな、母親にも」

「ぜひ、やめてください……」

「あっそ」


 そして、駅へ向かう最中、山下君は突然に立ち止まった。
 本当に前触れもなくだったので何かと止まると、山下君が手を伸ばしてきた。


「ん」

「え?」頭の上に疑問符でも浮かびそうな、わけも分からずにその手を見つめていると、山下君がため息を吐く。


「手だよ、手。つなぐんだよ」

「あ……ああ! 手ですね!」


 やっと理解できたところで、山下君はがっくしと肩を落としながら私の手を取って握った。


「お前……それ、マジでやってる?」

「ご、ごめんなさい……」

「マジで鈍感……。本気だったらどうしようとか、柄にもなく思ったぞ」

「あ、あははは……」苦笑いするしかない。


 いたたまれない思いで山下君に手を引かれていると、今度は「げっ」と山下君が洩らした。
 次は何かと思うと、数メートル先には私たちの存在に気がついたド派手な格好の女の人……心歩さんだ。


 心歩さんはこちらに大きく手を振りながら駆けてきた心歩さんに、山下君は心底嫌そうな顔だ。


「あれっ、真宙じゃーん!」

「今、最高に会いたくねぇ人間に出会ったな……」

「失礼な! ──あっ、奏ちゃんじゃん!」

「お久しぶりです……」

「でも、なんで?」心歩さんが興味津々に私たちを観察するようにキョロキョロすると、ピーンッと閃いたみたいで「あっ!」と大きな声を上げる。


「手をつないでるってことは、付き合ってんの!?」
- ナノ -