「好きです」 - 14

 ………………



「ん……」


 気持ちのいい朝の目覚めみたいに瞼を開けると、目の前にはまだ眠っている山下君の顔があって驚いた。


 び、びっくりした……。

 心臓が飛び出ちゃうかと思った。


 すぐそばに綺麗な寝顔があれば、いくらなんでもびっくりする。
 けれど、それもいつしかそんなこともなくなるのかもしれない……。


 とは言え、山下君が寝ていることをいいことにその顔を確認すると、やっぱり綺麗だなぁと思う。
 今でも信じられない。
 こんな人と両想いだなんて……。


「きれい……」

「何がだよ?」

「わっ!?」


 思わず口から出た言葉に反応するように山下君が目を開けたので、さらに驚いた。


「お、起きてたんですか!?」

「あのなあ……ずっと見られてりゃ、視線感じて寝てらんねぇって……。少し怖かったぞ」

「えっ!? ご、ごめんなさいっ」


 私ってば、そんなに見てた!?

 おまけに怖いって……。

 確かにそうだよね、普通は引くよね……。


 振り返ってみれば、山下君の言葉はもっともだ。
 私だって誰かにじっと見られていたら、恐怖を感じるに決まっている。


「で? 何。綺麗って」

「えっ?」


 ショックと反省を同時にしていると、山下君が私が最初に発言した「きれい」について質問してくる。


「何が綺麗なわけ?」

「えっ……だから、その……山下君の寝顔って、きれいだなぁって思って……」

「そうなのか? さすがに自分の寝顔は見られねぇからな……」


 山下君がそれからぶつぶつ言うが、はっきりとは聞き取れない。


「ま、いいや……。んじゃ、そろそろ出るか」

「えっ? 出るんですか?」


 意外とあっさりとした言葉に面食らう。
 付き合ったことなんてもちろんあるはずがなく、どうしたらいいのか分からないが、こんなものなのかと呆気に取られる。


 ベッドから出ようとした山下君は私の言葉に反応して、ぴたりと止まったかと思えば、私の方へ顔を向ける。
 その表情はにやりと口角を上げる、意地悪な笑み。


 私はここで「しまった」と思うけれど、時すでに遅し。


「何? もっとする?」

「えっ!?」

「もっと激しいのがお好みなら、俺はそれでもいいけど……」

「い、いいです! 喜んで出ます!」

「あっそ?」


 山下君はとても愉快そうに笑った。
 私は恥ずかしいやら悔しいやらで、急いで支度をしたのだった。
- ナノ -