「好きです」 - 11

 山下君がちゃんと濡らしてくれたおかげで、痛みもそんなになくて、ほっと胸を撫で下ろしていた。
 もちろん、それは経験豊富な山下君だからこそ、私はこうして受け入れることができている。


 ただ、それが少し寂しくもあった。
 山下君の最初の人はどんな人だったのか、と。
 山下君の初めては、いつだったのか。
 そして、いつから、どんな理由で転々と女を変えることになったのか。


 けれども、それはあえて聞かないでおこうと思った。
 話したくない話は誰でもある。
 秘密は誰にもある。
 それをいつしか打ち明けてくれる日を、私は待つし、言いたくなければそのままでいい。
 私はただ……いつまでも、山下君といたいだけ。
 一緒にいられれば、それでいいんだ……。


「入ったぞ……」


 慎重に入れてくれた山下君がはぁ、と熱い吐息を吐き出して、私の額にまた自分の額を押し当ててくる。


「痛くないか……?」

「大丈夫……です」

「そっか……」


 山下君の表情が優しくなる。
 そんな顔を見て、私もなんだか幸せな気分だ。


 不意に、山下君の手が私の頬に触れる。
 優しく撫でて、そのまま耳を撫で、私の髪にまで伸ばす。


「お前の感触、マジにいい……」

「そ、そうですか……?」

「ああ……安心する……」


 そんな褒め言葉を言われたことがない私にはよく分からないが、褒められるのは素直にうれしい。


「山下君……ごめんなさい……」

「ん?」

「私、何もして……あげられなくて……」


 山下君は優しく愛撫してくれて、私に気持ちいいことをしてくれているのに、私は山下君に触れることすらしていない。
 それが、急に申し訳なく感じられる。


「別にいいんだよ、そんなの……」

「え……?」


 優しくしていた山下君の手が、私の頬をつねった。


「い、いひゃいんですけど……っ」

「ははっ、悪ぃ……。──ともかく……そんなのはどうでもいいんだよ。俺は……奏と触れ合ってる……ただ、それだけでいい……」

「山下……君……」

「まっ、そのうち……お前から誘われんのも、悪い気しねぇけどな……?」

「さ、誘っ……」

「無理だろ? だから、そのうちでいい……。今は別に、できなくてもいいっての……」

「山下君……」