「私の秘密」 - 05

 ………………



 夕陽の光が射す誰もいない放課後の教室で、また1人エッチに及んでいた私はやっと終えて、本日2度目の息を吐き出す。


 ──未だに4限目前の山下君との一件が脳裏を掠め、あのときのドキドキがよみがえってくる。
 そして、あのまま──と想像が膨らんでしまい、いつもならすぐに家に帰って別のオモチャを試すのに、ついつい盛り上がってしまった。


 ホント、なんだったんだろう……。

 すごく気になるよ〜。


 少女マンガで見るようなシチュエーションは期待していない──だが、あるとしたら、あったとしたら、どれだけいいことだろう。


 ──そんなこと、あるわけないのにね……。


 それをここまで引きずってきたネタだったはずなのに、熱が一気に冷めるようにバカバカしく感じられてきた私は、席から立ち上がる。


 昨日、今日と山下君と少しでも話せただけでも十分だ。
 これ以上、期待してはいけないし、舞い上がってはいけない。


 気を引き締めて出口に向かうと──


「あ、坂下。まだいたんだ」

「え?」


 向かおうとした先に、山下君がいた。
 またしても突如として現れたイケメンに、今度はロボットのようにピタリと脚を揃えて立ち止まってしまう。


「何? 今から帰んの?」

「え? あ、はい。そうですけど」

「ふーん。じゃあ、タイミングいいな」

「え? 何の、タイミングですか?」


 山下君は一体、何を言っているのだろうと首を傾げる。
 そんな私を嘲笑うように、山下君は笑みを浮かべて、私の元へゆっくりと歩み寄ってくる。


「いや。坂下にどうしても訊きたいことあって」

「き、訊きたいこと……ですか?」


 また、だ……。

 山下君があのときのように何を考えているのか全く読み取らせない笑顔を浮かべたまま、近寄ってくるせいで、また怖いと思ってしまう……。


 まるであの瞬間に戻ったように、私が後ろへ一歩下がれば、山下君はその分を詰めてくる。
 それを繰り返し──ガラス戸にぶつかったその瞬間に、山下君の腕が私めがけて伸び、戸につく。


「あ、の……」


 声をようやく発すると、山下君の顔がぐっと距離を詰めてきた。


 な、何……!?


「なあ、坂下」

「は、はい……」

「お前、すげーやらしい匂いしてる……」

「えっ?」

「お前さ……」


 山下君の低い声が、私の耳元にまで寄ってきて──そして、呟いた……。