07堕天使の恋

 ──仕事を終えた私は、保健室をぐるりと見渡し、鍵の閉め忘れがないことや、きちんとベッドメイキングしたことを確認すると、ふぅと一息吐く。


 やっぱり冬になったとあって、風邪の患者が増えてきた。
 保健室には誰もいないことが一番、望ましい場所だ。
 だからと言って、なくすわけにも行かないのも学校という教育施設だと思っている。


 まあ、それでも養護教諭になったのは、少しでも救ってあげたいっていう気持ちから来てるんだけど。


 昔から憧れだったのだ。
 病人に優しくする養護教諭は天使のようと。
 私も天使になりたいという思いだった。


 でも……今はもう、生徒を好きになった堕落した天使だ。
 それでも、ここに留まりたいとは笑ってしまう。


 ……帰ろう。


 凌君に告白するのはまだ先にしよう。
 もうすぐ、彼だってこの学校の生徒ではなくなる。
 もう、教師と生徒ではなくなる──その日まで……。


 バッグを肩にかけ、出入口に体を向ける──と、ドアの前には凌君が立っていた。


 不意に現れた好きな人にドキドキと脈が早まる。


「ど……どうしたの、成瀬君?」


 問いかけて数十秒。
 凌君はゆっくりとこちらに歩んでくる。


「もう、酒井先生とは別れたんですか?」

「え……っ?」


 凌君は私の目の前に止まると、真っすぐに見つめてくる。


 驚いた。
 誰にも言っていないし、疑いの目がかからないようにとお互い気にしていたというのに、なぜ凌君は知っているのか。
 実際、噂すら立たなかったというのに。


「先週、保健室でセックスしてたの、聞こえてきたんで」


 私が動揺していることを汲んでか、求めていた答えをその口から聞いて納得する。


「で、別れたんですか?」


 その質問に答える義務は私にはない。
 少なからずその通りだと返答したって、結果が変わるはずがない。


「成瀬君には関係ないでしょ」

「冷たいですね……。俺達、何回もここでセックスしたじゃないですか」

「もうそれは過去の話でしょ……。生徒会の仕事が終わったのなら、早く帰りなさい」

「嫌です」

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