06受け皿

「ふーん、凌はまた高嶺の華に逆戻りかぁ」


 瀬戸君はニヤニヤ笑いながら言うものだから、凌君はそれが癪に障ったらしく、眉を顰めて不服そうに顔を歪める。


「何でニヤニヤしてんだよ。ムカつく」


 注意されたにも関わらず、それでも瀬戸君はその笑みを崩さないまま、「べっつにー」と目を逸らしている。


 そのせいで凌君のイライラゲージが上がったらしい。


「そのヘラヘラしてる顔、ぶん殴っていいか?」

「ちょっ! 生徒会長のくせに暴力反対だぞ? 綾ちゃん、助けてよー」


 瀬戸君のヘルプの声に耳を貸すことなく、私は笑うだけで二人を見守った。


 凌君は瀬戸君の横腹に肘を何度も当てて、楽しそうに笑っている。
 それに対して瀬戸君は嫌がる様子も痛がる様子も見せずに、「やめろー」と棒読みで言っている。


 そのいかにも男の子らしい戯れている姿は、見ていて気持ちがいい。


 そんな中で私は、蟠りが少しだけすっきりした気がしていた。
 凌君は三日月さんと別れた。
 その事実を知っただけで、可能性が格段上昇したわけではない。
 それでも、凌君に私の気持ちを受け入れてもらえそうだと思っていた。

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