04優しき毒に侵される前に
………………
結局、体も心も満たされなかった私は、優希さんとの関係を断ち切ることにした。
せめてものと、優希さんからいいお店を教えてくれたことと、今までのお礼を含めて、今度は私が行きつけのフランス料理店で最後の食事を迎えることにした。
「優希さん、ごめんなさい……。お付き合い、やめさせてください」
「えっ、どうしてですか!?」
「やっぱり、諦めきれなくて……。もう一回──いえ、今度こそちゃんと告白したいと思ってるんです」
あまりにも自分勝手な理由だ。
だが、やっぱりこのままではなんの踏ん切りはつかないし、逃げてばかりでは終わることもできない。
「で、でも、またフラれたら……」
「そのときはそのときです。このままじゃ、また優希さんの優しさに甘えてしまいます……。そんなの、恋愛関係じゃありません。ただの依存です」
依存するということはただの逃走でしかない。
だからこそ、教師と生徒の関係で相手を見るのではなく、もう一度、恋愛感情として凌君を見たい。
もうそれ以上言うことはなく、だからと言って優希さんも困惑した表情で考えているみたいで、クラシックが流れるだけの優雅な時間が重い空気に侵される。
「判りました。それが綾菜さんの気持ちなら仕方ありません」
一曲が終わって、新しい曲に変わったその瞬間に、優希さんは微笑を交えて理解してくれた。
その優しさがあまりにも怖くて、つい口に謝罪の言葉を出してしまう。
それでも、彼の顔から笑みは消えない。
「いえ。短かったですけど、確かに楽しくて幸せな時間でした。俺からはぜひ、言わせてください。──ありがとうございます」
つ……目から暖かいものが零れ、それは頬を伝って落ちた。
その一筋を皮切りに、次々と溢れてきて、どうしようもなく顔を押さえる。
なるべく嗚咽を押し殺しながら、私も優希さんに「ありがとうございました」と告げた。
──食事を終え、優希さんを家まで送り届けようとしたが、断られてしまう。
本人言わば「俺も依存から卒業したいので」とのことだった。
それがきっと、優希さんができる最後の優しさだったんだろう……。
優希さん、ありがとう。