06それは津波のように

 ──仕事を片付け、一旦保健室へと戻ってきた私は、ある程度ベッドメイキングやら備品の整理をする。


 あとは、酒井先生が保健室に来るまで待てばいい……。


 久しぶりの男性との外食に、どこか遠足に行くような妙な高揚感があった。
 罪悪感を感じないわけではないが、これも前進への一歩だ。
 踏み外すわけにはいかない。


 小さくガッツポーズをしたそのとき、ガチャとドアが開く音を耳にする。
 酒井先生が来たと思って見ると、そこには男子生徒5人の姿。


 もう下校時間は過ぎている。
 早く帰さねば、と教師という意識がすぐに働く。


「どうしたの、君たち。こんな時間に。もうとっくに下校時間は過ぎているの、帰りなさい」


 教師らしく普段より低い声で言うが、相手は終始ニヤニヤとこちらを見つめるのみ。
 それがたまらなく不愉快で、不安だ。


「なあ、先生。最近、元気なくね?」

「はい?」

「もしかして、彼氏にフラれちゃったとか?」

「な、何を言ってるの……」


 まさか、凌君と三日月さんの関係に、何かしらのリアクションをしてしまっていたのか。
 こちらとしてはもちろん無意識なのだから、分かるはずもない。


「だからさ、俺たちが慰めてあげるよ」

「な、慰めるって……」


 彼らの笑みが深くなる。


 あらゆるところから冷や汗が噴き出してくるようだ。


 にじり寄る学生たちとは正反対に、後退する。


「そんな、怖がらなくていいよ。俺ら、優しくしてあげるしさ……ね?」


 やはり、そうか。
 この子達は私を襲う気だ……。


 固唾を飲む。
 そのときにはもう逃げ道はない。


「やめなさい……先生を呼ぶわよ」

「ははっ、震えてるよ、綾ちゃん? つーか、安心してよ。鍵はちゃんと内側からしたから」


 ガバッ──5人一斉に私へ押し寄せ、冷たい床に押し倒した。

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