05不幸せ

 ──あれから、凌君に廊下ですれ違っても、話しかけられることが少なくなっていた。
 そしてその度に一緒にいるのは、瀬戸君ではなくて三日月さんだった。


「ねえ、瀬戸君」

「ん? 何、綾ちゃん?」

「えーと……。成瀬君と三日月さんって付き合ってるの?」

「あー、それかぁ。あれ、三日月の猛アピールだよ。前から好きだったらしいんだけど……」


 そういうことか。
 凌君に触られて、箍が外れたみたいな感じの。


「まあ、気にすることはないよ。すぐに諦めるから」

「そう……ありがとう」


 果たしてそうなのか?
 私にはどうしても、三日月さんがすぐに諦めるようには思えない──そんな気がした。


 その後、瀬戸君と別れ、職員室に行く。


「あ、赤城先生!」

「はい?」


 職員室に入るなり、やや低い声が私の背中にかかる。
 振り向くと、そこには私と同じ時期に異動してきた酒井先生だった。
 顔はいい感じにカッコよく、優しいのだが、どこかおっちょこちょい。
 そこがいいと女の子が騒いでいた記憶がある。


「あの、えっと……」

「何ですか?」


 口をパクパクさせて、何かを言いたそうにチラチラとこちらの様子を窺ってくる。


「今夜、一緒にご飯食べませんか!?」

「へ……? ご飯を?」

「あっ、そのですね、えーと……いいお店を見つけて、赤城先生と食べられたらなと思って……っ」


 えーと、もしかしてこれって、お誘いだよね?


 初めてのことに戸惑う。
 そして、凌君のことも頭にちらついて、何だか切なくなる。


 でも、どうせ#叶わぬ恋……。
 このまま想い続けても仕方ないし、いっそのこと、新しい恋をスタートさせた方がいいのかもしれない。
 そうだ、これは好機──。


「分かりました、いいですよ」

「えっ、いい?」

「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」


 酒井先生はみるみるうちに覇気のある明るい顔色に変えていく。
 そして、やったぁと大喜びして私の手を両手で包んで上下に揺らした。


「ありがとうございます、えへへ」


 にへらとだらしない顔だけど、それは幸せそうな顔でこちらまで何だかうれしくなる。


 たまには、いいかも……。

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