05響く、墜落の音
………………
「おめでとう、三日月。最後までよく泳ぎきったな」
「成瀬君のおかげだよ、ありがとう」
三日月は見事、授業で25メートルを泳ぎきったんだ。
普通なら厳しいと思ってはいて、実際に泳いでいるときはときどき止まってしまいそうになっていたが、何とか無事に手をつくことができた。
「まさか、泳ぎきるとはな。びっくりした」
「うん……スイミングスクールにちょっと通ったおかげかな」
「何だよ、それ? まるで、俺の力不足みたいな言い方」
「え? 違うの?」
俺がムスッと不機嫌な表情を作ると、三日月がクスクス笑う。
「嘘、冗談。この前の仕返し」
「やられたな……」
と、呟くと、三日月がまた笑い出す。
相手が笑うから、何だか自分もおかしくなってきて、笑ってしまう。
「もう、俺が教える必要はねえよな」
「え?」
「え、じゃないだろ。やっと克服できたんだから、俺の出る幕はとっくに降りただろ?」
「え……う、うん」
そう言って俯く三日月。
よく判らないけど、何だか淋しそうに見えるのは俺の考えすぎか?
「何だよ、そんな淋しそうな顔して? もっとうれしがれよ」
「だって……」
「は?」
三日月が俯いた顔を上げると、瞳が涙で濡れている。
そんな目で俺を見上げ、ホントに淋しい表情を浮かべていた。
「あのとき、言ったよね……まだ、付き合ってくれるって……」
「は? ああ……」
「これからは、その……彼氏として、付き合ってよ……」
「はあ!?」
やべっ……つい大声を。
茜空に俺の驚きの声が反響する。
慌てて口を手で覆って平静を装おうとは思うけど、やっぱり冷静ではいられない。
いや……待て。
落ち着け、落ち着けよ。
俺の聞き間違いか?
いや、でも……確かに、"彼氏"とか"付き合って"って言った──よな?
「悪い、俺……帰るわ」
つーか、待てよ!
帰るとかおかしすぎるだろ!
ここはちゃんと返事を待っててほしいとか言うだろ!
でも言い出したからには止まるわけにはいかない。
プールの出入口を目指そうとすると「待って!」と制服の背後の裾を掴まれると、二人ともにバランスを崩してプールに引き込まれた。