03コントロールしたいココロ

 ………………


 今日は人が少ない。
 それはとてもいいことだから、決してがっかりはしていないんだけど。


「先生、いいですか?」

「ん? あ……」


 どこからか声がしたから見回してみると、扉の前に凌君が立っていた。


「どうしたの? 今、授業中だよね?」

 保健医だから、その人の具合が悪いかなんて簡単に判断できる。
 凌君は本来の理由で、ここに来たんじゃない──そう直感した。


「調子が悪くないなら、早く戻りなさい」

「先生らしい言葉ですね」


 ドクンッ──その発言に何かしら嫌な予感を覚えた。


 ダメ……。

 この気持ちだけは封印しなきゃ……。


 私たちは教師と生徒。
 その線引きされた一線を飛び越してはいけないんだから。


 それなのに、凌君は私のデスクに近づいてくる。
 けれども、私はそれを阻止しようと言葉を繋げる。


「聞こえなかったの? 保健室には具合が悪いときだけ来て」

「ちゃんと先生に調子が悪いのでって言ってきましたよ」

「それは仮病だよね? 私にはそうは見えない。だから」


 早く戻りなさいってもう一度言おうとしたとき、凌君の顔が急接近する。


「な、何?」

「俺……セックスしたいんです」

「えっ?」

「無性にしたい……これも、立派な病気ですよね? 綾菜先生?」


 凌君は舌を出して、私の耳を一舐めした。


「ひゃあ!?」

「先生のそのエロい声聴いてると、もっとって……」


 ぺろ……ぺろぺろとまるでリズムを刻みながら、耳を舐め回してやがて、その舌が中にまで侵入してくる。


「ひぁん……っ、ん、んっ」


 ピチャピチャ……

 舌のざらざらとした、それでいて、水音がやけに反響して聴こえる、そんな変な感覚が体をぞくぞくと震わせる。


「だ……ダメ!」


 凌君の胸板に腕を伸ばし思いっきり突っ張ると、彼はよろめきながら距離を取る。


「ダメだよ、こんなこと……っ」


 そう、自分に言い聞かせてきた。
 凌君は生徒なんだから、たとえ好きになっても、触ってほしいと思っても、こんなことは許されない。


 なのに、どうして凌君は私に触ろうとするの?


「何で、私に触ろうとするの? 他にも、女の子はいくらでもいるでしょ? 何もアラサーの年上の女性じゃなくても、周りにいるでしょ?」

「俺は……、俺にとったら、綾菜先生は女の子です」

「えっ……?」


 女の子?

 私が……?


 アラサーなのに、みんなから見ればお姉さん以上の歳なのに、女の子だって見てくれているの?


 嬉しい。

 でも、ダメ……ダメなの。


「お願い、私に触らないで。そんなご機嫌取りはやめて……」

「嫌です」

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