02重かった胸

「あ、綾ちゃん! おっはよー!」

「おはよう、瀬戸君」


 今日も瀬戸君が元気な挨拶をする。


 相変わらず、明るいなあ。


 彼の底抜けな明るさに安心しつつ、ふと違和感を抱く。
 今日は凌君の姿がない。


「あれ、成瀬君は?」

「今日はおはようキャンペーンで、まだ来てないよ? 多分、ギリギリに来んじゃねーかな」

「そうなの」


 落胆しそうになるのをぐっと堪え、冷静に頷く。


 そっか、今朝はいないのか。


 でも、かえってほっと胸を撫で下ろしている自分も確かにいた。


 昨日、あんなことがあって、まともに顔を見ることができないと思うから。


「そういえば、いい彼女に出逢えた?」

「いやー、それがさ。なかなかいなくて。できれば、大人しめの子がいいんだよねー」

「へー。瀬戸君、そういう子がタイプなんだ? 意外だなあ」

 彼はいつも私に話を聞いてほしそうな、そんな目をしてくるから、こうして話を振るのがもはや恒例だ。
 正直、面倒だとは思っているんだけど、凌君の声を聞けるから、瀬戸君がおしゃべりなのはむしろ好都合だったりする。


「凌にも言われる、それ。だって仕方ないじゃん? 前の彼女が結構、ウザくてさー」


 ウザい、か。
 ちょっとぐさっと心に刺さる台詞……。
 私もおしゃべりなところがあるから、ウザがられるよね……。


 瀬戸君と凌君はタイプが違うから、瀬戸君の意見が凌君に通用するかは判らないけど、これは大事な情報と思って胸の内に留めておこう。


「じゃあ、教室に行くねー」

「うん。授業、がんばってね」


 瀬戸君は毎度のようにスキップをして、自分の教室へ入っていった。


 さて、と。

 私も、保健室に行こう。


 凌君と顔を合わせずに済んでよかったと思うと、私の足取りは出勤時よりも軽くなっていた。

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