12秘密に揺れる鼓動

「あ、成瀬君。今から帰り?」

「あ、赤城先生……」


 タイミングよく先生がこちらに向かって、歩いてきた。
 赤城先生がやって来た方向には職員室があるから、保健室に戻るんだろう。


「ちょうど保健室に行こうと思ってて」

「え? どうしたの?」

「紙で切っちゃったみたいで」

「そうなんだね」


 事情を話しているうちに、保健室に到着する。
 室内に入り、すぐのところに椅子があるからそこに腰を落ち着ける。


「ちょっとした擦り傷だから、絆創膏を貼っておくね」

「はい、ありがとうございます」


 絆創膏を貼ってもらったので、立ち上がる。
 けれども、その拍子に胸ポケットに入れていたスマホが床に落ちた。


「大丈夫?」


 そう言いながら、赤城先生が俺の携帯を拾う。
 その瞬間、先生の胸の谷間が見え、不意にドクンと心臓が鳴った。
 何考えてるんだ、俺は……と自分を怒りたくなった。


「はい……ん?」


  赤城先生は俺のスマホを差し出しつつも、手を離そうとしない。
 何やら、ディスプレイを見つめたまま、フリーズしている。


「先生?」

「えっ……! あ、っ……」


 何かを言いたそうに口を開けるが結局、閉じてしまう──それを繰り返す。


 どうしたんだ?
 スマホを見たり、俺を見たり……。


 そのとき、俺はさっきのカズとのやり取りを思い出した。
 カズに動画を見せてとねだられ、しばらくしてスマホを返してもらったあの瞬間を──。


「はあ!?」


 次第に状況が読めてきたとき、血の気が去っていくような気分に襲われる。
 咄嗟に先生の手からスマホを奪い返した。
 その途端に画面を見ると、眼を覆いたくなる衝動に駆られた。
 そこには案の定、目の前にいる保健医が乱れている、俺がおかずにしていたオナニー動画が再生されていたんだ……。


 嘘だろ……カズのヤツ、消さなかったな!


 それ以外考えられない。
 俺は今日、一度もこの映像を見ていないんだから。


 その前にどうする?
 この危機的状況。
 赤城先生に似た女優が保健の先生というAVの設定──いやいや、明らかにそんな話は都合がよすぎる。
 だったら……という、さらに逃げ道を捜索するが、頭は完全にパニック。
 目の前に見えているかもしれない道さえ、見逃していそうだ。


「どうしたの? これ」

「えっ?」


 重い沈黙を破ったのは、赤城先生の方だった。
 予想外に相手側から話しかけられたから、何とも間抜けな声を出す。

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