10ご機嫌なドライブ

「それにしても、外車なんですね?」


 車を走らせて、5分ぐらいか。
 ずっと気にしていたことを口にした。


「そうなの。私、外車とかが好きで、お父さんにねだって買ってもらったの。特に赤い車が好きだから、すごく気に入ってるんだよねー」


 そういう赤城先生の横顔がとてもご機嫌で、しばらくして鼻唄まで唄い出した。
 ついさっきまで震えていたあの姿はどこに消えたんだか。


 呆れてはいるが、でも笑顔が戻ってよかったと安堵する。


「よかったです、先生の笑顔を見られて」

「え?」

「だって先生は明るいんですから、笑顔が一番似合ってますよ」

「そ、そうかな?」

「はい。俺、先生の笑ってるとこ、好きです」

「え……あ、ありがとう……」


 赤城先生は口ごもりなから言う。
 先生からその違和感を感じ取り、俺が何か変なことでも言ったかと不安になる。


 ときどき、素直すぎだってカズに突っ込まれることがある。
 もしかしたら、先生は好きという言葉に反応したのか?
 いやいや、そんなことがあるはずがない。
 だって、俺と赤城先生はあくまでも生徒と教師なんだから。


 何だかおかしな空気が流れ出したぞ、と思い、次に話題として何を挙げようかと意識に手を伸ばそうした
 そのとき、通い慣れた帰路に見慣れた花屋が目に入った。
 俺はあ──と声を上げ、赤城先生に知らせる。


「この道をまっすぐに進んだとこに花屋があるんで、そこで下ろしてもらっていいですか?」

「花屋さん? 確か、Butterflyっていうお店?」

「そうです」

「そうなんだ。私、花が好きで、通り道だからよく寄ってくの」

「そうなんですね。俺、花には疎くて」

「男の子らしいね。私ね、花を咲かせた瞬間が一番やりがいを感じるの。まあ、私に限った話じゃないと思うけど」


 ふふっ、と小さく笑う彼女に、俺はすっかり不安を感じなくなった。
 誰かとこうして話しているだけで、安心できるという言葉は正しいんだろうな。


 先生は俺が指示した花屋のそばの路肩に停車した。


「すみません、送ってもらっちゃって」

「ううん、こっちこそ無理矢理お願いしてごめんね」

「いえ、気にしないでください」

「ありがとう」

「じゃあ、おやすみなさい」

「うん、おやすみなさい」


 車外に出て、赤城先生に会釈すると、彼女は手を振る。

 俺は花屋の右にある道に沿って、歩き出した。
 背後から、先生の車だろうか──エンジンを吹かす音が聞こえ、次第にその音は消えていった。


 それにしても、助かったな。
 話が長続きしたおかげで、変な気を起こさずに家路につけたんだから。


 ……でもやっぱり、先生への欲情を完全に吹き消すことはできていない。
 あの刺激的なものを見せられて、男である自分が黙っているはずがない。
 結局、俺は本能に負けてしまい、寝る前に赤城先生をおかずにしながら孤独な夜を過ごしたんだ。

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