09所詮 悪魔は天使には優しい
事が収まったと判断して、赤城先生の元に近寄った。
「大丈夫でした? 赤城先生」
「う、うん。ありがとう……」
そう言う彼女の体が震え、それが声にも影響していた。
やっぱり怖かったんだろう。
「成瀬君が見つけてくれてなかったら、私……今頃……」
あの先のことを想像してしまったのか、保健医の身体がより一層震える。
あまりにも震えがひどいことに自分で気づいて、腕を体に巻きつけて自身を抱きしめた。
「大丈夫です。もう、大丈夫ですから」
もし、この場面がAV的な展開なら、俺のポジションは2人の不埒なシーンに欲情して女性を襲うパターンに当たるんだろうけど、さすがに抱いたのは欲情ではなく、同情だ。
「ありがとう……」
今なお、震えが止まらないが、落ち着いては来ているようだ。
多分大丈夫だろうと思い、俺は帰る旨を伝えると、赤城先生はぜひ送らせてほしいと言ってきた。
「で、でも」
「お願い。ちょうど帰宅しようと思ってたし、一人じゃ不安なの」
そう言われてしまうと、断れるはずがなかった。
俺は仕方なく承諾した。
先生は鍵を取りに行くと言って、校門の前で待っていてと促された。
言われた通りに校門の前で待つ。
そのとき、俺は溜息を吐いた。
やっぱり断りたかった。
彼女の動画をおかずにしているので、密室で2人きりというのはかなり気まずいし、まずいシチュエーションだ。
ムラムラしないと断言できるわけでもないし、傷心の女性を襲うなんて最悪な輩がやる行為。
それでも、不安だって言われてしまえばきっぱり拒否することなんて、それこそ最低だろう。
俺が悶々とした情と葛藤しているうちに、光が道路に差し込まれたかと思えば、赤い車が目の前で停まった。
「お待たせ、成瀬君。ほら、乗って」
助手席側の窓が下ろされたと思ったが、どうやら左が運転席になっているみたいだ。
右側に回って、先生が開けてくれたドアから車に入り込む。
「成瀬君って、どこに住んでるの?」
「朝日です」
「そうなんだ。私、その先の青山なの」
「そうなんですね」
行き先が判った赤城先生は、エンジンを嘶かせて愛車のハンドルを握った。