08悪魔を超える悪魔

 俺が会議室の中に入ると、最上の顔がひきつる。
 せっかくの色男が一瞬で台無しとなる。


「き、君は……!」


 とんでもない場面を見られた──そんなことが顔に書かれている。
 そんな最上とは正反対に、俺は至って冷静な声を上げる。
 最上にとってそんな俺は、あまりにも冷静すぎて、その声に凍りつきそうに身震いした。


「成瀬です。最上先生、何してたんですか?」

「な、何って」


 口ごもる教師に、俺はスマホを見せつけた。
 すると、彼の顔色に血の気が失われていく。


「答えられないなら、俺が教えてあげましょうか? あなたは赤城先生に近づいて、不埒な行為に及ぼうとした──あれ? 違いました?」


 わざとらしく笑いかけるが、最上は今すぐにでも倒れてしまいそうに血色が悪い。


「これ、理事長に見せちゃいましょうか。生徒会長の俺が通報したら、さすがに先生の首が飛んじゃいます?」


 饒舌に話す俺に最上は慌てて「待ってくれ!」と声を荒げる。


「手を出したのを認める! 認めるから、理事長だけには……!」


 その場しのぎの謝罪なんかいらない。
 焦りの色を濃くしていく最上に、呆れる俺の顔は一体、どう変化しているのだろう。
 言えることは、まるで無表情か──冷たいものが面に表れているのだろう。


「迷惑なんですよ、あなたみたいな教師がこの学校にいられるの。僕はより良い生活を生徒はもちろん、先生たちに送ってもらいたい。そのためだったら、俺は何だってやります」


 それが俺の理想の学校なんだから。


「別にあなたを嫌っているわけじゃないんです。世界史を分かりやすく解説してくれるし、質問にいつだって答えてくれます。なるべくだったら、そういういい面を持つあなたにはいてもらいたい。ただ、それだけなんですよ」


 これは本音だ。
 俺もこの教師に質問させてもらったことがあるから、彼もこの言葉に偽りがないことを判っているはず。


 そういった願いに似た俺の思いを受け止めてくれたのか、口を閉ざす。


「僕は、君の言った僕になればいいのかな」

「はい」

「そしたら、君は忘れてくれるのか?」

「もちろん。言ったでしょう、最上先生にはいてほしいって。僕は嘘を吐きません。誓ってもいいです」

「判ったよ」


 答えに満足し、俺はにこりと微笑み返した。


「そう言ってくれると思ってました」


 最上は一瞬、嫌悪感を露にした表情こそしたものの、去り際に「ありがとう」と呟いて姿を消した。
 別に、お礼を言われるほどのことをしていないが。

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