06天使の秘密に溺れる

 昼休みになったので、カズと机を合わせて昼食をとっていた。


「やっぱ凌のお母さんの弁当、うめー!」


 カズは相変わらず、俺の弁当をつまみ食いをする。
 うちの弁当はまずいとか言うが、カズの嫌いなものが入っていることが多いからそう思うだけ。
 カズの弁当を食べたことがあるが、普通に美味しいと俺は思う。


「お前の弁当も十分、美味いって」

「マジかよ? ──あーあ、俺とお前の母親、逆だったらいいのになあ」

「それは無理だな」


 俺はスマホを取り出し、ツイッターの確認をする。
 今日は異常なし、と。


「あ、凌。スマホ貸して」

「はあ? 何でだよ」

「今、充電切らしてんだよ」

「ちゃんと充電しろっての……仕方ねーから貸すけど、用済んだら返せよ?」

「判ってるってー」


 そう軽く返事するから、余計信用ならねーんだって。


 でも、友人の頼みなら貸さないわけにもいかない。
 まあ、ここで貸さなかったらと言って、俺たちの間に支障を来すほどの問題でもないが。


 その前にもっと問題がある。
 赤城先生のオナニー動画だ。
 あの映像を見られたら、欲しいと言われる。
 もしかしたらカズをきっかけに拡散してしまうかもしれないし、やがて本人に気付かれたら俺はおしまいだ。


「……ん? 何だ、これ?」


 ん?

 どうした?


 俺が不安に思いながらも見守っていると、カズの眼が見開かれた。


「なあなあ、凌! 何だ、これ!?」


 カズは興奮しながら俺のスマホをこちらに見せつける。
 そのディスプレイには、俺の願いを見事に裏切った結果か映っていたんだ。


「これ、綾ちゃん……だよな!?」


 やっぱり見られてしまった。

 あの動画を……。


「何でこんなの持ってんだよ!? ──さてはお前、ヤラセ……!?」

「違うっての! たまたま見かけたんだよ」

 何で、そんな発想に行き着くんだ。


 しかし、うるさかったのは最初だけで、次第に動画に夢中になっていった。
 魅入るカズの喉仏が動く。
 普段の赤城先生では見られない一面に、感情が高ぶっているんだろう。


「羨ましいぞ、凌! 俺にもくれ!」

「やらない。」

「頼む!」

「絶対、流すだろ。もし俺に辿り着いたら、イメージダウンだろーが」

「流さねえって! だからさ」

「何の話してんだよ、お前ら?」


 騒がしくなってきたからか、クラスメイトの男が俺たちの間に入ってくる。

「な、何でもねーよ。なあ、凌?」

「ああ。悪いな、騒がしくて」

「いや、何でもないんならいいんだけどさ」


 とは言いつつも、何かが引っかかっているような表情を顔に貼りつかせながら、自分がいたんだろうグループの輪に戻っていった。


「危なかったな……」

「ああ……」


 カズがスマホを返してくれたあと、俺たちが一息吐くと、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。


 机を戻すカズに俺は一言──


「さっきの動画はやらないし、このこと口外したらただじゃ置かねーからな」

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