05天使のもうひとつの顔。
「はよー、凌」
家を出ると、カズが微妙な顔で挨拶をする。
明らかに何かあったな。
「暗いな、カズ」
歩きながら、カズに話しかける。
「いやさー、椿と別れたんだけど。アイツ、ラインばっかしてきて、ウザイんだよなあ」
「つーか、もう別れたのかよ」
「あのなあ、誰にだって我慢の限界ってあるだろ? それが昨日だったってことよ」
椿ちゃんとはまだ半年も経っていないから、それほど情がなかったんだろう。
「つーか、消化できねー。どうしてくれんだし……」
これは重症だな。
それからはカズの愚痴が電車に乗っても止まらず、結局、赤城先生に逢ってやっと明るい表情になった。
「慰めてよー、綾ちゃん……」
赤城先生は俺を見たので、優しくしてやってくださいと小声で知らせる。
「大丈夫だよ、瀬戸君。今度はさ、自分に合った子をじっくり探して、失敗しなきゃいいんだから。ね」
いつになく優しい声音で慰める。
すると、カズの顔がみるみるうちに明るくなる。
「だよね! 次は失敗しなきゃいいんだからさ! ありがとう、綾ちゃん!」
「う、うん。その意気だよ、瀬戸君」
立ち直りが早すぎるカズに引き気味の先生だが、コイツは全く気にしていない。
「っしゃあ! 今度こそは失敗しねー!」
そう言って、カズは足取り軽く教室に入っていった。
何なんだ、アイツ……。
「あ、先生。ありがとうございます、慰めてもらっちゃって」
「いいの、いいの。優しいんだね、成瀬君は」
ふわり──まるで天使の羽根が舞い降りてきたかのように笑う赤城先生の顔を見て、再びあの動画が浮かんで、思う。
この笑顔の下に、あの淫乱の面が隠れているんだ──と。
「もうすぐHRだから、教室に入った方がいいよ」
「あ、そうなんですね。じゃあ、先生。失礼します」
「うん」
助かった。
これ以上話していたら、下半身がヤバくなるところだった。