04明日の朝日
瞼を持ち上げると、夜が明けたばかりと闇が失せていくそんな光景が、左右につけられたカーテンの開いた隙間から見えた。
頭上の右斜め脇に設置された机上にある目覚まし時計に眼を遣ると、まだ5時にもなっていなかった。
目覚めたばかりだから、普段生活している以上の体の重さを感じつつ、ゆっくり上体を起こす。
ぼやけていた視界と意識がやっとはっきりしてくると、昨夜の寝る前の行動を思い出す。
あのとき早速、あの動画をおかずにしたんだけど、予想以上に刺激的な映像で、すぐに果ててしまった。
だって、性知識に関していかにも淡白そうなあの赤城先生が自慰って。
あの動画を頭に思い浮かべるだけで、また欲望がむくむくと膨れ上がってくる。
いやいや。
こんなんじゃ、だめだ。
よくない欲を眠気と飛ばすように頭を振る。
保健室の前を通るときはなるべく平常心でいようと心がけて、半分寝ぼけたまま身支度を始めた。
「母さん、おはよう」
「あら、凌。今日は早いのね」
リビングに降りると、母さんがすでに朝食の用意を始めていた。
俺もキッチンに入り、母さんの隣に並ぶ。
「俺も手伝うよ」
「いいのよ、別に。凌は大変なんだから」
「だからだって。たまにはこうして手伝わないと、家じゃあ役に立てねーし」
「そう? じゃあ、味噌汁を作ってくれる? 大根と油揚げが具ね」
「了解」
指示に従ってすぐ、母さんがふふっと笑い出す。
何がおかしいんだ?
そういう眼で母さんを見ると、ごめんねと言う。
「久しぶりねー、凌とキッチンに並ぶのって思って。中学も生徒会だったから忙しかったものね」
「そうだな……」
そういえば、中学もそうだった。
俺が手伝おうかと言っても、母さんはいいのと一点張りだった。
気を使ってくれるのはもちろん嬉しいんだけど、やっぱりたまには家族に奉仕をしなければならないと思う。
俺は家で威張れるほど、偉くはないんだから。
「どう? 今回もうまくやれそう?」
「やれそうじゃなくて、やるんだよ」
生徒会長になったら忙しい──とか愚痴は零したけども、この仕事にやりがいを感じられるから立候補したんだ。
生半可な気持ちじゃあやれないし、やりたくもない。
「そう、頑張ってね」
「うん」
俺は生徒も、先生も気持ちよく通える学校でありたい。
これは中学でも掲げていた理想の学校像であって、目標だった。
案外子供じみた目標だって笑う人間もいたけど、これがどれほど難しいかを正直言って俺も判っていなかったときがあった。
それでも俺が正しいと思う道を慎重に選んで、邁進していたあのがむしゃらな気持ち。
理想に近づけなかったというのも理由だが、今でもその感覚が忘れられず、懲りずに生徒会長に立候補したんだ。
今度こそその理想像を築くため、俺は前進したい──改めて思った。