四時限目の終わりのチャイムが鳴る。そこら中の奴らが一斉にしゃべり始めて、授業はあっけなく終わった。
弁当箱は空である。なぜってそんなの、二時限目終わりに食っちまったからだ。
「あれ、みょうじは?」
自分の机で、他の女子二人と弁当をつつく高木に言った。三人は、これにみょうじも入れた四人でよくつるんでいる。そこにみょうじの姿が無いのは、不思議だった。
「あー、あの子、食べる時いっつも一人だから」
「は?」
何それいじめ?カッコ悪、そんな風に言ってみれば、高木が急にキレ出して俺の腹部を思い切りぶん殴ってきた。空腹時の腹部にはきつすぎる攻撃で、たまらずにうずくまる。
「あたし達は一緒に食べたいわよ! あの子が言うんだからしょうがないでしょ!」
見上げて見た高木の瞳が、少し、少しだけ涙で揺れていた。
屋上への階段を上ると、ほこり臭い感じが体内に広がるようで不快感が増していく。一段飛ばしてずんずんと進んでいくと、やっと、外へ繋がるドアが見えた。
「みょうじ」
焦りながら開けたせいか、少し大きな音を立てて開いた古びたドア。そのすぐ横で、みょうじは小さなパンを両手で持っていた。
「丸井、くん!」
さっとみょうじが、両手で持っていた昼飯を後ろに隠した。それ自体変な感情は持たなかった。しかしあの、インターネットで見た記事と同じだとのちのち考えたら、どきりとした。
「どうしたの?」
「いや、別になんでもないんだけどさ」
勢いでここまで来てしまったせいで、うまく言葉が出てこない。とりあえず手に持った購買の弁当をみょうじに見せて、一緒に食っていい?と一言言う。驚いた顔が見えたが、すぐにぱっと咲いた笑顔に、俺がどれだけほっとしたことか。
「うん。一緒に食べよ」
それから俺たちは、他愛のない話で盛り上がり昼休みを終えた。テニス部のこと、クラスのこと、俺たちに共通する話題は少なかったけど、みょうじは俺の話にずっと耳を傾けて、楽しそうに笑っていた。俺は満足だった。みょうじがどんどん元気になっているような気がして、うれしかったのだ。
二人で教室に入ってきた俺たちを見て、珍しく教室に居た仁王が口元を上げた。
「おーおー、お熱いのう」
「ばっか、ちげえよ」
まんざらではない。みょうじは高木達のところで談笑していたので、俺も仁王の言葉に笑みを抑えきれなかった。
「でもなぁ、ブン。あんまり首を突っ込んじゃいかんところもあるけん、気をつけんしゃい」
「? おう」
みょうじとの談笑に満足しきっていた俺は気付かなかったのだ。あいつが唯一昼食として持ってきていた小さな小さな菓子パンを、たった二口しか食べていなかったこと、俺の前で一切昼食を取らなかったことを。
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